第3章 第5話: 「思わぬ出会いに心が揺れる」

市場の喧騒の中、私とお怜(おりょう)、そして鎮光(しげみつ)はいつものように歩いていた。今日の市場は特に目を引くものがなく、甚兵衛(じんべえ)の露店も静かだった。何も見つからずに帰ろうとしていたその時、私の目に飛び込んできたのは、一枚の**「恋愛成就」**と書かれた札だった。


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「恋愛成就……?」

私はその言葉に一瞬心を奪われた。鎮光がすぐそばにいることを意識しながら、気づかれないように札をちらりと見つめた。


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「お姫ちん、どうしたの?」

お怜が私の様子に気づき、不思議そうに聞いてくる。


「ちょっと気になるものを見つけちゃったの。お願い、お怜、鎮光には内緒でお願いね。」

私は小声で頼むと、彼女はすぐにニヤリと笑って頷いてくれた。


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「鎮光、少しあちらの方を見てきてくれないかしら?すぐに戻るから。」

私はいつものように鎮光にお願いすると、彼は無言で頷き、私たちから少し離れて市場を見回りに行った。


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「よし、今のうちに!」

お怜が私を急かすようにして、私はこっそりと甚兵衛の露店へと向かった。


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「ねえ、甚兵衛、ちょっと聞きたいんだけど、あの『恋愛成就』ってどういうもの?」

私は少し馴れ馴れしい口調で甚兵衛に尋ねた。鎮光に聞かれたくないので、小声で話しかける。


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甚兵衛は私の問いに嬉しそうに笑いながら答えた。


「お嬢さん、これは特別なものだよ!恋愛成就の秘薬さ。これを使えばどんな恋でも叶うんだ。ただし、使い方にはちょっとしたコツがいるんだよ。」

彼は小さな瓶を取り出し、中に入った淡いピンク色の液体を見せびらかした。


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「使い方にコツがいるって、どういうこと?」

私はさらに興味が湧いて、顔を覗き込むようにして尋ねた。


「ただ飲むだけじゃダメなんだ。この薬の効果を引き出すには、特別な手順が必要なんだよ。そのために、これが必要だ。」

甚兵衛は棚の奥から巻物を取り出し、ちらつかせながら言った。


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「え、説明書もいるの?」

私は驚いた顔で尋ねた。


「そうさ、この巻物がないと効果は半減だ。お嬢さんの恋を叶えるためには、これが絶対に必要なんだ。」

甚兵衛は得意げに笑いながら巻物を掲げてみせた。


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「なるほどね……それもお金がかかるの?」

私は少し警戒しつつも、興味を抑えきれずに尋ねた。


「もちろんさ、だが少しの投資で大きな結果が得られるって考えれば安いもんだろ?お嬢さんのために特別価格で提供してやるよ。」

甚兵衛はにこにこと笑いながら巻物を差し出した。


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私は一瞬迷ったが、やはり気になって仕方がなかったので、最終的に財布を取り出した。


「じゃあ、その説明書も一緒にちょうだい。」

私は銭を渡し、巻物を受け取った。


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「いい選択だ、お嬢さん!これで恋愛成就も間違いなしだ!」

甚兵衛はにやりと笑って巻物を手渡してきた。私はそれを素早く懐に隠し、鎮光が戻ってくる前にその場を離れた。


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「早く、鎮光に気づかれないようにしないと!」

私はお怜と顔を見合わせ、急いで露店を後にした。


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少しして、鎮光が戻ってきた。


「何か見つかったかしら?」

私は何事もなかったかのように微笑んで尋ねた。鎮光は無言で首を振り、私たちの後ろに戻った。


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その夜、私は手に入れた巻物と瓶を静かに広げ、次の日に備えて準備を始めた。果たして、この秘薬は本当に効果があるのだろうか。期待と不安を胸に抱えながら、その夜を過ごすことになった。

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