第3章 第2話: 「開かない箱に潜む謎」

市場で鎮光(しげみつ)が手に入れた木箱は、甚兵衛(じんべえ)が「富と名声を呼び寄せる」と豪語して売りつけたものだった。箱の中身が気になって仕方ない私たちは、部屋に戻るなり鎮光に箱を開けさせることにした。


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「ねぇ、あの箱の中には何が入ってるんだろう?」

お怜(おりょう)が鎮光の持つ木箱を興味深そうに見つめて言った。


「富と名声を呼ぶって甚兵衛は言ってたけど、本当だったらすごいことよね。」

私も期待を込めて鎮光に話しかけた。鎮光は無表情のまま、静かに木箱を机の上に置いた。


「今、確認してみましょう。」

鎮光が淡々と箱のふたに手をかける。しかし、予想に反して箱はびくともしない。


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「ん……?」

鎮光が少し眉をひそめ、もう一度力を込めてふたを押し開けようとするが、頑丈に閉ざされているようだ。


「えっ、そんなに固いの?」

私は思わず驚きの声をあげた。お怜も「その箱、開かないようになってるんじゃない?」と笑いながらからかう。


鎮光は何度か挑戦するが、やはり箱は開かない。しばらく沈黙した後、彼は無言で立ち上がり、剣を抜き始めた。


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「ちょ、ちょっと待って!斬るつもり?」

私は慌てて鎮光を制止した。箱を剣で斬って開けるなんて、乱暴すぎる。


「壊すのはやめましょう。他にもっと普通の方法があるはずよ。」

私は必死にたしなめ、お怜も「そうだよ、箱を斬るなんてやりすぎ!」と同調してくれた。


鎮光は無表情のまま剣を収め、今度は慎重に箱を押したり、傾けたりしながら何とかして開けようとする。しかし、頑丈なその箱は一向に開く気配がない。


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「まさか、この箱、本当に開かないんじゃない?」

お怜が冗談交じりに言うが、私たちも少し不安になってきた。


「中身を見なきゃ、富も名声も手に入らないじゃない……。」

私は焦りを感じつつ、鎮光の努力をじっと見守る。すると、ついに――「バキッ!」と音がして、箱のふたが勢いよく開いた。


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「やっと開いた……。」

お怜が安堵の声を漏らし、私もほっと胸を撫で下ろした。しかし、箱の中を覗いた瞬間、私たちは目を見開いた。


中には、ただの**石ころ**がひとつだけ入っていたのだ。


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「えっ、石?」

私は思わず声を漏らし、お怜も呆れたように箱の中を覗き込んだ。


「これが富と名声を呼ぶ秘宝……?」

お怜はぼそっと呟き、二人で顔を見合わせた。鎮光は無表情のまま石を手に取り、しばらくその石をじっと見つめていた。


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「……何か彫られているようです。」

鎮光が石を回し、裏側に目を向けた。すると、その石には何か文字が彫り込まれている。


「なになに……『富戸冥斉(とみと めいせい)』……?」

私はその名前を声に出して読んだ。お怜は、一瞬意味がわからず首をかしげていたが、やがて目を丸くして笑い出した。


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「富と名声って……ただの名前だったってこと?」

お怜は顔を押さえながら、笑いをこらえきれなくなっていた。


「まさか、この石に彫られた名前が『富と名声』っていう意味?」

私も信じられない思いで、石を再度確認した。


「そうみたいね……。」

私は徐々に笑いが込み上げてきた。そして、とうとう我慢できずに大笑いし始めた。


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「なんだ、結局ただの石ころじゃない!甚兵衛の話はやっぱり嘘ばっかりだったわ!」

私は笑いながら石を手にし、お怜も大声で笑っていた。


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鎮光は相変わらず無表情のままだったが、少しだけ石を見つめた後、静かにため息をついた。


「結局、名前の持ち主が富戸冥斉という人物だっただけですね。」

淡々と事実を述べる鎮光に、私たちはますます笑いが止まらなくなった。


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「冥斉さんに会えるなんて思わなかったわ!」

お怜が冗談交じりに言い、さらに笑いがこみ上げてくる。


「これじゃあ、富も名声も手に入らないわね。」

私も笑いながら石を見つめ、結局ただの名前だったことに呆れつつも、笑いを続けた。


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「次は慎重に選びます。」

鎮光は冷静に言いながら石を箱の中に戻し、ふたを閉じた。

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