第2章 第9話: 「侍の決意と瓦版屋の秘密」
翌日、私は昨日の夜のことが頭から離れなかった。深夜に行われた鎮光(しげみつ)の稽古、その姿に見えた一瞬の揺らぎ。それは、彼が本当は感情を隠しているという確信を私に与えた。
「鎮光は何かを抱えている……。」
私は自分にそう言い聞かせながら、どうにかして彼にもう一歩踏み込めないかと考えていた。しかし、彼は今まで一度もその心を開いたことがない。私がどう問いかけても、冷静さを崩さない彼。昨日の一瞬の表情すら、今となっては夢のように感じられた。
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「お姫ちん、また鎮光のこと考えてる?」
お怜(おりょう)が私の様子を見て、いたずらっぽく笑いながら声をかけた。
「うん……やっぱり彼のことが気になるのよ。無表情の裏に何があるのか知りたくてたまらないの。」
私は正直に答えた。お怜は私の答えに少し驚いた様子だったが、すぐに肩をすくめて言った。
「まぁ、無理して探らなくても、そのうちわかるんじゃない?鎮光って、無口だけどちゃんと見守ってくれてるじゃん。」
お怜の言葉は励ましのように聞こえたが、それでも私は鎮光の秘密を知りたいという気持ちが募っていた。
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その時、またしても松吉(まつきち)が現れた。彼は相変わらず瓦版を持ち、興奮した様子でこちらに駆け寄ってくる。
「姫さん!今日はまたすごい話が入ってきましたよ!」
彼の顔にはいつものように誇らしげな笑みが浮かんでいる。私はため息をつきながらも、彼の話を聞くことにした。
「また何の噂?今度はどんな話?」
私は少し呆れながら尋ねた。松吉の話は毎回、あまりにも現実離れしている。
「今度の話は……鎮光さんが昔、裏の世界で暗躍していたって話です!隠密のリーダーだったらしいですよ!」
彼は誇らしげに瓦版を掲げながら、興奮した様子で話し始めた。
「隠密のリーダー……それもまたすごい話ね。」
私は苦笑いしながら答えたが、心の中では「また嘘ね」と思っていた。松吉の話がいつも誇張されていることは分かっていたが、鎮光の過去に関してはどこかしら気になる部分があった。
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「まぁ、姫さん、これを信じるかどうかは自由ですが、瓦版に載せれば町中が大騒ぎになるのは間違いありません!」
松吉は自信満々に言い放ったが、私は頭を振った。
「でも、それってただの噂でしょ?鎮光がそんなことしてるなんて、想像もつかないわ。」
私は鎮光をちらりと見たが、彼はいつも通り無表情のままだった。松吉の話にも一切反応を示さない彼の態度に、私はますます困惑してしまった。
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松吉が去り、静けさが戻った後、私はふと思い立ち、鎮光に声をかけた。
「鎮光、松吉の話、あなたはどう思う?」
私は彼の無表情な顔を見つめながら尋ねた。彼がどんな答えをするのか、心の中で期待と不安が入り混じっていた。
「松吉の話は、ただの噂に過ぎません。」
彼は静かに答えた。やはり予想通りの返答だったが、私はさらに踏み込んで聞くことにした。
「でも、あなたが何かを隠しているっていうのは本当なんじゃない?昨日の稽古、見てたわ。」
私はそのまま問い詰めるように続けた。鎮光が一瞬だけ驚いたように目を見開いたが、すぐに表情を元に戻した。
「……私が何をしていようと、姫様には関係のないことです。」
彼の声は冷静だったが、その一瞬の動揺を私は見逃さなかった。彼は確かに何かを隠している。そして、私にその秘密を話すつもりはないようだった。
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「関係なくないわ!あなたのことを知りたいの。」
私は思わず声を荒げてしまった。いつも冷静な鎮光に対して、これほど感情的になったのは初めてだった。彼の無表情の裏に隠された何かを知りたいという思いが、私を突き動かしていた。
鎮光はしばらく黙って私を見つめていたが、やがて深く息をついて静かに言った。
「姫様、私はあなたをお守りするためにここにいます。それ以上のことは望まないでください。」
彼の言葉は冷静だったが、その裏には何か重い感情が隠されているように感じた。私はそれ以上何も言えず、ただ彼の言葉に耳を傾けるしかなかった。
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その夜、私は再び鎮光のことを考えながら床に就いた。彼が何かを隠しているのは確かだが、それを彼自身が話すことはないだろう。それでも、私は彼の無表情の裏にある真実を知りたいと願い続けていた。
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