第1章 第8話: 「侍の誤解」

盗賊たちの不自然な退却から数日が経ち、私は依然として胸の中に燻る不安を抱えていた。あの時、交渉がうまくいったように見えたけれど、やっぱり何かがおかしい。彼らが何もせずに引き下がった理由が、まだ解けない謎として残っている。何を狙っているのか、それを知るまで安心することはできない。


「お姫ちん、また考え込んでるね~。顔がちょっと怖いよ?」

お怜が私の横でにやりと笑い、軽く私の背中を叩いた。彼女の楽観的な態度は、いつも私を安心させてくれるけれど、今回ばかりは簡単に笑い飛ばす気分にはなれない。


「うーん、どうしても引っかかるのよ。何か大きな理由があって、あんなに簡単に引き下がったとしか思えないの。」

私は小さくため息をつきながら、お怜に答えた。彼女は私の不安を感じ取ったのか、少しだけ真剣な表情を見せたが、すぐに笑顔に戻った。


「まぁ、あたしたちはあの時うまく乗り切ったんだから、大丈夫っしょ!あいつらも本当にもうこないかもね?」

お怜の楽観的な言葉に、私は少しだけ気が楽になったが、それでも疑念は消えない。


そんな時、鎮光が私たちの元に戻ってきた。彼は常に冷静で、感情を表に出さない。その姿を見ていると、私は少しだけ安心する。彼がいる限り、どんな状況でも何とかなるという気持ちになるのだ。


「姫様、少々お時間をいただけますか?」

鎮光が私に声をかける。私は頷き、彼の話を聞く準備を整えた。


「先日、盗賊たちの動向を追っておりましたが……彼らが再びこの町に戻ってくる可能性が高いです。」

鎮光の言葉に、私は背筋が凍る思いがした。やはり、彼らはただ退いたわけではなく、何かを計画しているのだ。


「それは……本当なのね?」

私は緊張しながら尋ねた。鎮光は真剣な表情で続ける。


「彼らはこの町で何かを探しているようです。その目的がまだ明確ではありませんが、再度現れる可能性は非常に高いです。」

鎮光の報告を聞いて、私は再び疑念を深めた。やはり、盗賊たちは何かを探していたのだ。だが、それが何であるのか、私にはまだ見当がつかない。


「じゃあ、もう一度準備をしないといけないわね。彼らが戻ってくる前に、町を守る手立てを考えないと……。」

私は考えを巡らせながら、次に取るべき行動を考え始めた。お怜も私の横で真剣に聞いている。


「お姫ちん、もしまた来たら、今度はどうする?やっぱり鎮光に任せて戦っちゃう?」

お怜は冗談半分に言ったが、私はその言葉を真剣に考えた。確かに、今度こそ彼らを力で退けるしかないのかもしれない。


「……そうかもしれないわ。でも、まずは何を狙っているのかを知る必要があるわね。」

私はそう答えながら、何かもっと効果的な策がないかと考え込んでいた。その時、鎮光が口を開いた。


「姫様、少しお言葉を申し上げますが……私はあなたが再度交渉を望んでいるとお聞きしました。しかし、それが効果的かどうか……。」

彼の言葉に私は一瞬驚いた。どうやら鎮光は、私がまた盗賊たちと交渉しようとしていると誤解しているようだ。


「違うのよ、鎮光。私はもう一度交渉するつもりはないわ。今度は私たちが彼らの狙いを突き止めて、先手を打つ必要があると思っているの。」

私ははっきりと彼に伝えた。鎮光の無表情が少しだけ動いたように見えたが、彼は深く頷いた。


「承知いたしました、姫様。では、町の守りをさらに強化いたしましょう。」

鎮光が力強く答えたことで、私の決意も固まった。私たちはもう一度、しっかりと準備を整え、盗賊たちに立ち向かうための手立てを練ることにした。

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