第1章 第5話: 「お姫ちんの知恵袋」

盗賊たちを前にして、私は彼らを油断させ、町民たちを避難させる時間を稼ぐことに成功していた。しかし、このままではいずれ盗賊たちが不審に思い、事態が悪化する可能性があった。お怜が私に目配せし、町民たちが無事に逃げ切ったことを確認してきた。


「お姫ちん、町民たちは全員無事。さすが、お姫ちん!」

お怜の言葉に私はほっと胸を撫で下ろす。だが、次の瞬間、盗賊たちのリーダーが鋭い目でこちらを見てきた。


「おい、なんか怪しい匂いがするな……お嬢様、一体何を企んでるんだ?」

リーダーが目を細め、私に疑念の視線を向けてきた。どうやら私たちの動きに気づき始めたようだ。鎮光がすぐに手を剣の柄にかけたが、私はまだ暴力的な解決は避けたかった。


「鎮光、まだ待って。首を跳ねるには早すぎるわ。」

私は彼の腕を押さえつつ、盗賊に向き直った。ここで何とか説得する方法を見つけなければならない。


「企んでる?そんなことないわ。私はただ、あなたたちがこの町にいる理由を知りたいだけよ。」

私はあえて冷静さを保ちながら彼らに問いかけた。彼らの行動には理由があるはずだ。それを突き止めれば、さらに時間を稼ぎ、最終的な解決策を見つけることができるかもしれない。


「理由だぁ?俺たちには俺たちのやり方があるってだけだ。それをお嬢様に教える義理はねぇ。」

リーダーはまだ笑いながら答えたが、少しだけ警戒心が解けたようにも見えた。


その瞬間、私は考えを巡らせ、あるひらめきを得た。彼らのリーダーに対して、ある交渉を持ちかけることにしたのだ。


「あなたたちがこの町にいるのは、何か目的があるのでしょう?力を誇示するためとか、他の人たちを支配するためとか……でも、もし私があなたたちに、もっと大きな見返りを用意すると言ったら、どうする?」

リーダーは興味を引かれたようで、少しだけ前のめりになった。


「ほぉ?大きな見返りだと?お嬢様、そりゃ一体なんだ?」


「私があなたたちを、この町の守護者として推薦してあげるわ。もしあなたたちがこの町を守る存在になるなら、私からもお墨付きを与えて、今後の活動を認めるようにするわよ。」

私の言葉に、リーダーは一瞬戸惑いを見せたが、すぐに思い直したように口元に笑みを浮かべた。


「守護者だって?俺たちが?面白ぇ話だが、信用できる話じゃねぇな。」


「でも、それが本当に実現すれば、あなたたちは今よりもずっと大きな力を手に入れることができるわ。何も強奪する必要なんてない。町の人たちからの信頼と、私からの支援が得られるのよ。」

私はさらに説得を続けた。この場で彼らを説得できれば、争いを避けるだけでなく、町全体を守ることができるかもしれない。


リーダーは少し考え込んだが、まだ疑念が残っているようだった。彼は私をじっと見つめながら言った。


「確かに面白ぇ話だが、お嬢様がそこまで言うなら、まずは信用を示してもらわねぇとな。」


その言葉に、私はさらに策を練ることにした。彼らを完全に信用させるためには、もう一歩踏み込む必要がある。


「そうね、じゃあ、こうしましょう。今すぐこの町を立ち去りなさい。次に戻ってくる時は、私と正式な交渉をするために。そしてその時、私の提案を受け入れるかどうかを決めてくれればいいわ。」


盗賊のリーダーは一瞬考え込んだが、最終的に笑いながら答えた。


「ふん、面白ぇ。じゃあ、お嬢様の言葉を信じて、今回は引いてやるとするか。」


そう言うと、リーダーは手下たちに退却の命令を出し、その場を去って行った。私たちは無事に町を守ることができた。


「お姫ちん、マジでやったね!さすがお姫ちん!」

お怜が嬉しそうに私の肩を叩き、笑顔を見せる。私も少し安心した。


「でも、これで終わりじゃないわ。また戻ってくる可能性がある。次の時に備えなければ。」

私はそう言いながら、さらに対策を考え始めた。これで一件落着ではなく、これからが本当の試練かもしれない。


「鎮光、ありがとう。あなたが落ち着いてくれたおかげで、無事に解決できたわ。」

私は鎮光に感謝の言葉をかけたが、彼は無表情のまま軽く頷いただけだった。それでも、彼が私を守ろうとしてくれたことはしっかり伝わっている。


これで一時的に町は救われたが、次の戦いに備える準備を怠るわけにはいかない。

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