第1章 第2話: 「いざ、城下町へ!」

「ついに外に出られるわ!」と私は思わず声を上げ、胸の奥から溢れ出す喜びを隠せなかった。城の中に閉じこもってばかりの退屈な生活から、ようやく解放される瞬間だ。城下町に行くのは久しぶりで、私の心はときめいている。お怜が横で軽く笑いながら、「お姫ちん、マジでテンション上がりすぎじゃね?」と突っ込んでくる。


「だって、久しぶりなのよ!お怜だって楽しみでしょ?」

「ま、そうだけどさ~、お姫ちんがハシャぐの珍しいし、見てるとこっちまでウケるわ!」

お怜はいつも飄々としているが、こうして私と一緒に城を抜け出すと、私たちの会話も自然と楽しくなる。私たちはまるで友達のように過ごしているけれど、お怜の存在は私にとって特別だ。彼女がいなければ、私は今ほど笑顔でいられなかったかもしれない。


それでも、私たちの行く先にはいつも一牛斎 鎮光がついてくる。彼は私の護衛であり、忠実な侍だ。彼がいれば、どんな危険な場所でも安心して歩ける。だけど、少しだけ問題がある。彼の「首を跳ねたがる」癖だ。


「姫様、どうか油断なさらぬよう。城下町は思っている以上に危険です。何が起こるかわかりません。私が護衛として参りますが、万が一、無礼者が現れたら、その者の首を……」


「だから、首を跳ねなくていいの!」

鎮光はいつも真剣に物騒なことを言い出す。もちろん、彼の忠誠心はありがたいし、何があっても私を守ろうとしてくれるのは分かるけれど、もう少し落ち着いてくれてもいいのに……。お怜も彼の言葉を聞いて笑いをこらえきれず、私にひそひそと耳打ちしてくる。


「お姫ちん、鎮光ってさ、ほんとにガチすぎじゃね?すぐ『首を跳ねる』とか言い出すとか、怖すぎっしょ!」

「そうね、でも彼がいなかったら、私たちが危ない目に遭ってたかも知れないわよ?」

私たちは笑いながら話しつつも、心の中では鎮光に感謝している。彼はどんな時でも私のために全力で守ってくれる。それが彼の役割だし、そんな彼の真面目さが頼もしい。しかし、彼の鈍感さが時に少しもどかしいのも事実。もっと私の気持ちに気づいてくれたらいいのに……。


門をくぐり、城下町に一歩踏み出した瞬間、私の心はさらに高鳴った。目の前に広がる賑やかな通り、屋台や商店が立ち並び、活気あふれる人々の声が響いている。ここは私が思い描いていた通りの、いや、それ以上の楽しい世界だ。お祭りのようなざわめきに包まれ、私は自然と足を速めた。


「わあ、見て!鎮光、あそこに焼き団子のお店があるわ!」

私はすぐに美味しそうな屋台を見つけて駆け寄る。焼き団子の香ばしい香りが私を引き寄せた。しかし、すぐに鎮光が鋭い目つきで私に近づいてきて言う。


「姫様、どうか毒見を……」

「いいってば!」

私は笑って彼を制止する。鎮光の過剰な心配はいつも笑いを誘うけれど、その裏には私を守りたいという思いがあるのも知っている。それでも、もう少しリラックスしてくれてもいいのに、と私は思わず心の中でため息をついた。


「お姫ちん、ホント過保護だよね~、鎮光。食べ物でそんなに心配するなんて、ウケる!」

お怜は私の横で焼き団子を手に取り、軽い調子で笑い飛ばす。私もつられて笑いながら、焼き団子を一口食べた。外はカリッと香ばしく、中はもちもちで、思わず声が出るほど美味しかった。


「美味しい!鎮光も少しは楽しんだらどう?」

私は半分冗談で言ったが、彼は相変わらずの無表情で、「私は姫様を守るのが務めです」ときっぱり言い放つ。その真面目さがまた、少し切なくて、同時に微笑ましい。


「ま、いいわ。もっといろんなお店を見に行きましょう!」

私は気を取り直して、さらに町を歩き回ることにした。次々と現れる屋台や商店を眺めながら、鎮光とお怜と一緒に歩くこの時間が、なんだかとても楽しく感じる。鎮光の無骨な忠誠心に感謝しながら、私の胸の奥では、少しずつ彼への想いが膨らんでいくのを感じる。けれど、それを伝えることなんて、私にはできそうにない。


「鎮光、今日はどこまで護ってくれるのかしら?」

私が軽く冗談を言うと、鎮光は「どこまでも」と短く返した。いつもなら冷たいと感じるその言葉が、今日だけは少し温かく感じた。私がこうして彼と一緒にいられるだけで、きっと十分なのだろう。


城下町の賑わいの中で、私たちはどこか日常を忘れ、短い冒険を楽しむのだった。

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