お姫ちんと朴念仁(仮)

@anichi-impact

第1章 第1話: 「お姫ちん、城下町行くっしょ?」

私は、愛(こころ)。城に住む退屈な姫だ。毎日同じような日々、同じような顔ぶれ、同じような話。礼儀作法を身につけなければいけないとか、政略結婚の話を聞かなければならないとか……正直、もう飽き飽きしている。もっと自由に生きたい。そんな風に思う日々を送っていた。


そんなある日、私の側近であり親友とも言えるお怜が、いつもの調子で現れた。彼女は城のルールなんてお構いなし、私にとって数少ない、肩の力を抜いて話せる存在だ。


「お姫ちん、今日どうする?また暇つぶしで城の中でゴロゴロする?それとも、さぁ~城下町行っちゃう?」

お怜(おりょう)はいつものようにギャル語で話しかけてくる。彼女の軽いノリが、私の心を揺さぶった。


「城下町?それ、いいじゃない!行きましょう!」

私はすぐに彼女の提案に乗った。何か新しいことができると思うと、心が躍る。いつもと違う、城の外の世界。人々のざわめき、町の香り、全てが私を引きつける。だが、問題はひとつ。私には、一緒に護衛として同行する侍がいる。一牛斎 鎮光(いちごさい しげみつ)──私にとって、とても大切で、信頼できる存在。だが、彼には少し困った癖がある。


「姫様、城下町は危険です。万が一、何かあれば、その時は私が即座に無礼者を討ちます。」

鎮光はいつもの無表情で、きっぱりと言い放った。彼は忠実で、冷静で、どこまでも私を守ることに真剣だ。そんな彼の姿が、時に頼もしく、時に……ちょっともどかしい。


「大丈夫よ、鎮光。あなたが一緒にいてくれるんだから、私には何の心配もないわ。でも、首を跳ねるのはやめてちょうだい。」

私は笑顔でそう伝えたが、内心では少しだけ胸がドキリとした。鎮光の無表情が、時々私を悩ませる。私の気持ちに気づいてくれない彼が、なぜか愛おしくて、切ない。


「姫様、ご安心ください。もし危険があれば、速やかに対処します。」

彼は、ただそう言うだけだ。まるで、私が抱いている想いなんて知らないかのように。いや、きっと知らないのだろう。彼はいつも忠実で、私のことを護ることだけを考えている。だけど、私は、もっと別の意味で彼に守られているような気がしてしまう。そんなこと、彼はわかってくれないのだろうけれど。


お怜は私たちのやり取りを見て、クスクス笑っている。


「お姫ちん、マジで鎮光ウケるわ~。首跳ねるとか怖すぎっしょ!」

「ほんとよね……」

私は笑いながらも、胸の中で少しだけ切なさが広がる。鎮光はいつも、私の護衛として完璧に振る舞っている。それが彼の役目だから仕方ない。だけど、もう少しだけ、私のことを違う風に見てくれたらいいのに、とそんな願いがふと湧き上がる。


それでも私は、鎮光の冷静さが好きだ。感情をあまり表に出さない彼の存在は、逆に私を安心させてくれる。彼がそばにいるだけで、どんな場所でも行ける気がする。今日は、彼と一緒に城下町へ行く。それが私にとって、最高の冒険になるはずだ。


準備が整い、いざ城を出発する瞬間が近づく。私は鎮光を見つめ、少しだけ心が高鳴る。彼と一緒なら、どんなことが起こっても大丈夫。そう思いながら、私たちは城を出た。今日はどんな一日になるのか、楽しみでならない。

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