初日
転職初日。
さすがに前職の着古されたスーツでいくのもどうかと思い、新しく買った。
転職先は本社といくつかの支店に分かれており、私はとある支店の営業職として採用された。
真新しいスーツを来て、配属先の支店に向かう。
支店長に挨拶し、そのあと支店長から職員全員に紹介され、そこで挨拶。
銀縁眼鏡もいかにも真面目そうな、お堅そうな人。
一応、この転職先も前職とは同業他社にあたるので、支店長からは「即戦力として期待してます」と紹介されてしまった。
ここに配属されている職員は全員営業職なので、みんな覇気があって、明るい。
前職は、寝不足の日とも多かったからいつも目の下にクマを作ってどんよりした雰囲気の人が多かったので、対照的に感じた。
そのあと、私と同じくらいの年齢の社員(稲垣さん)が、社内を軽く案内してくれる。
この支店はできてまだ2、3年と新しく、建物もうっすら新築の匂いが残っていて、内装もきれいだった。
無料のウォーターサーバーやコーヒーメーカーなども(ほぼお客さんに出す用)もある。
トイレもしっかり掃除されていた。
稲垣さんは私より1つ年上だった。
スタイルがよく、パンツスーツがよく似合っている。
少し雑談もしながら、社内を案内してくれた。
よかった、この会社当たりかもしれない。
ものの1時間で確信したのだが・・・
「ここが今日から使っていただくデスクです。」
「・・・・・・!」
稲垣さんが指さす先のデスク。
そう、何の変哲もないただの事務机だ。
けれど、そのデスクの下に・・・
真っ黒な渦を見た。
デスクの真下にできた黒い渦。
よく見ると、黒に近い灰色でショッキングピンクの粒のようなものが混じっている。
生コンみたいな粘度を保って、ゴウゴウと音を立てながら、ぐるぐると下へ下へと渦を巻いている。
そこに入ったらもう出られないんじゃないかってくらいのグロイ渦。
私は霊感とかがあるわけじゃないし、オカルトにも興味はない。
でも、その時ははっきりと渦が見えた。
底なしのおぞましい渦が。
「どうかしましたか?」
稲垣さんは怪訝そうに私の顔を覗き込んだ。
「あ、はい。すみません」
さすがにこのデスクは使いたくない、というわけにもいかず、席についた。
座ってみたらなんてことないただの机だった。
先ほどの渦も、不気味な音ももう感じない。
いや・・・でも、あれは見間違いなんかじゃない。
私は少し胸騒ぎを覚えた。
渦 @hazukimana
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。渦の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます