都市の亡骸

風見カオル

 抜けるような、青くて澄んだ空だ。それを背景に、高層ビルが幾つも互いに繋がり合っている。昔は沢山の人が暮らしていたのだろうけど、今は誰も居ないみたいで、骨組みだけが残っている。内装もろとも中に抱えていた暮らしを喪ったビルたちは、なんだか白骨死体みたいだ。今ぼくが立っている辺りは都市の外れだったらしく、海の方を見るとたくさんの風力タービンが一面に立ち並んでいる。往時はさぞかしお喋りだったろうタービンたちも、今は沈黙を守っている。それにしても静かだ。海風が時折ビルの隙間を吹き渡っていくだけで、動くものは何一つ存在しない。

 くるりと都市の墓標たちに背を向けて、海の方へと向かう。下を向くと、ビルから剥がれ落ちた瓦礫がいやに真っ白で、なぜか飼っていた金魚を思い出した。

 海に着いても、生命の気配を感じることはなかった。ただ、透明な海水が岸壁に打ち寄せている。潮の匂いは、生命の証だったのだ、とこんな状況になって初めて気づいた。


 目が覚めた。夢見は最悪だ。

 綺麗な景色だった、だけど、哀しくて、恐ろしい夢だった。だって、あそこには都市たちの亡骸しかなかった。あれは、弔う人すら滅びた、誰も居ない都市の墓場だ。

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