第10話 小石と魔物とダンジョン

 ―ダンジョンのマップ販売が始まった。今回のセールは特別だ。今だけ、限定の最低価格で提供している。生きたダンジョンの中でも、これがあれば安全に通れる…かもしれない。冒険者たちは目を輝かせながら、一攫千金を狙ってマップに手を伸ばしている。


「いやいや、そんなものあるわけないだろ?」


「お前、知らないのか?このマップ、マジで役に立つんだぜ。あんまり保証はないけど、俺は結構助けられたからな」


「そうなのか…じゃあ、買ってみるか」


「お買い上げありがとうございます!一攫千金を夢見て、どうぞお試しください。残りあと3つしかありません。さあ、さあ、急げ!」リゼッタが群衆に向かって叫ぶ。


 冒険者たちは次々と手を挙げ、マップを購入していく。彼らの顔は興奮と期待に満ち、誰もがすぐにダンジョンへ向かおうとしていた。


「今だけしか販売しない限定品です!このチャンスを逃すと、二度と手に入りませんよ!ダンジョンが入れ替わるまで、あと数分!さあ、急いでください!」と、アリーシャも声を張り上げる。


 その瞬間、冒険者たちが我先にと押し寄せ、残りの3つを争っている。彼らの熱狂に呼応するかのように、金の雨が降り注いでくる。


「今回もうまくいったようだな。それで、成果はどうだったんだ?」俺は2人に尋ねる。


「すごい熱狂だったわ。まさかあんなに押し寄せてくるなんて」リゼッタが驚いた様子で答えた。


「本当に。あんな経験は初めてでした。酔いそうでしたよ。」アリーシャも同調する。


「そうか、うまくいったようだな。じゃあ、お前たちに報酬を分けよう。好きに取れ。これはお前たちの成果だ。俺は特に何もしていない。知識を与えただけだからな。だから、これはお前たちの分だ」


「いらないわよ。こんな大金、凄すぎるわ」リゼッタが戸惑いながら言う。


「そうです。これだけで充分暮らせますし」アリーシャも同じく恐縮している。


「お前たちはもう俺のビジネスパートナーだ。報酬も自由な暮らしも与える。それに、ハーレムに加わってもらうという条件付きもな」


「えっ!?」リゼッタが驚き、目を見開いた。


「はっ!?」アリーシャも頬を赤らめ、動揺する。


「言い忘れていたが、この契約にはハーレムに加わるという条件も含まれているんだ」俺はさらりと言い放った。


「そ、そんな条件聞いてないわよ!」リゼッタが慌てて言う。


「そ、そうですよ!それは、ちょっと!」アリーシャも言葉に詰まっている。



「嫌ならここを去っておサラバ、また一文無しになるだけだ。それだけの話さ」俺は冷たく言い放つ。


 2人は無言のまま、ただ俺を見つめていたが、何も言い返すことはなかった。静かな沈黙が流れる中、俺は肩をすくめて続けた。


「話はここまでだ。俺は寝る」


 俺は背を向けて玉座に戻り、深い眠りの準備を整える。指輪の呪いのせいで疲労は感じないが、眠気だけは抗いがたい。


 本来、睡眠は人間にとってリセットの時間だ。しかし、眠らなければ注意力は散漫になり、パフォーマンスも低下する。しばらく眠りについていた俺は玉座の間で目覚めた。


目を覚ますと、2人が立っていた。従業員としては問題ないが、彼らも生活費が必要で、俺から離れることはできないのだろう。


「しばらく考えたけど、あんたのハーレムに入ってあげるわよ、仕方ないからっ!」と一人が言う。


「わ、わ私も、そのハーレムに入ります!お願いします!」ともう一人が焦りながら続けた。


ハーレムに「なろう」と思って簡単になれるものでもない気がするが、まぁいいだろう。今日からお前たちは俺のハーレムだ。まずは、ここにお前たちの部屋を作る。そして、俺がいることで階層移動が可能になる。腹が減ったなら地上に出ればいいし、処理が必要なら俺を頼ればいい。


まぁ、それより次のビジネスの話をしよう。


「小石を売るんだ」


俺はポケットから取り出した小さなダンジョン産の小石を見せた。拾っただけのものだが、これに価値をつけて売るという計画だ。価値というものは宣伝次第で絶対的なものになる。この小石には特定の「プラス効果」があると言えば、それが価値を持つ。だからお前たちには、この小石を使って魔物を倒したと宣伝してもらう。その証拠として実際にこの小石を持ちながら魔物を倒してみせろ。そうすれば冒険者たちは信じてこの小石を買うだろう、と思っているんだが、どうだろう? 兵士たち?



「まず、この小石を布で磨け。自分の顔が映るくらいに、ピカピカに磨き上げろ」


俺たちは3人で、ダンジョンで拾い集めた小石を布で必死に磨き始めた。ピカピカになるまで、ひたすら擦り続ける。


これが思った以上に重労働だった。なかなか輝かないし、手が痛くなる。だが、他の二人も必死だ。一人は金のために、一人は生き延びるために、小石を磨き続けている。


「これを量産すれば効果を発揮する。一つでも十分だが、できれば2、3個は作っておきたい」


俺はそう言いながら、次のステップに移るために、倒せそうなモンスターのリストアップを二人に依頼した。二人は俺とは違い、ランクの高い冒険者だが、待ち伏せ専門であまり戦闘力は高くない。だから、簡単に倒せる相手でも、初心者には難しいモンスターがいるだろう。それをターゲットにして戦略を立てるんだ。


「お前たち、倒せそうなモンスターはいるか?」


「初心者殺しって言われてるチーターウサギとかどうですかね?」一人が提案する。


「そうそう、あれ、爪が鋭くて、食らったら大変なのです。うさぎみたい見た目だけど威嚇するとチーターみたいな模様になるんですよ」もう一人も同意する。


「ふむ、そんなモンスターがいるのか。それならそいつをターゲットにしよう。特徴を詳しく知りたいところだ。どの階層にいる?」


「確か、3階層あたりに群れを作ってますね。何匹もいるのを考えるだけで恐ろしいです」


「よし、その3階層に行ってテストをしよう。まずはお前ら、誰でもいいからパーティーを組んでこい。宝探しを手伝ってくださいとか、報酬を分けますとか言って仲間を集めろ。そしてチーターウサギのところへ連れて行って、そのモンスターを倒すんだ。モンスターが倒せたのはこの小石のおかげだと言って、その小石を売り付ける」


俺はそう言って笑みを浮かべた。これで金儲けの第一歩が始まる。

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