第6話 リゼッタ

 リゼッタは、傷だらけになりながらも前に進んでいた。途中、回復薬を飲みながら、次々と現れるダンジョンの魔物たちに立ち向かっている。何が彼女をここまで突き動かしているのか、その理由を俺は知りたかったが、彼女は決してそれを明かそうとしない。


 一方で、俺の方は睡魔に襲われ、そろそろ限界が近い。もしここで彼女を置いて、最短ルートで最下層に行ったら、彼女の一攫千金の夢は叶わず終わってしまうだろう。そこで、俺は彼女に取引を持ちかけることにした。


「なぁ、取引をしないか?」


「取引?」


「ああ。俺が持っている鉱石を売ってきて欲しいんだ。その代わり、売上の6割をお前にやる。俺は何らかの理由で、地上に戻れないんだ。だからこそお前に頼む。この取引、どうだ?」


「6割?いい話だけど、どんな鉱石なの?」


「このアイテム袋に入ってるやつだ。ただし、この小さな鉱石ひとつだけを渡す。お前が無事に戻ってきたら、また取引をしよう。戻ってこなかったら、それまでの話だ。それでどうだ?」


「なるほどね……いいわ、やってみる」


「よし、取引成立だ。この鉱石を渡しておく。俺は引き続きダンジョンの中にいるから、戻ってきたら探してくれ」


「了解、ありがとう」


 リゼッタは、上の階層へと向かって足早に去っていった。俺はというと、限界に達した睡魔に耐えきれず、最下層へと戻ることにした。


 そして、ふと気づいた。最下層には誰も辿り着けないのだと。ここで採れる鉱石や薬草は、もしかすると非常に貴重なものかもしれない。リゼッタがあれほど驚いたのを見て、それが確信に変わった。以前取引した連中に渡した鉱石も、かなりの高額だったのかもしれない。


 そう考えると、あいつらとはこれ以上の取引はやめておいた方が良さそうだ。次はリゼッタともっと本格的な取引をしてみるかもしれない。リゼッタなら、相場のことも教えてくれそうだしな。金を渡せば、少しは話してくれるだろう。


 幸い、俺には《ダンジョンマップ》があるおかげで、ダンジョンが変化しても鉱石の場所は把握できるし、薬草も取り放題だ。俺だけが持つ特別なビジネスルート。そして、最下層に現れる魔物も、俺にしか倒せない。何しろ、この場所に辿り着けるのは俺だけだからな。

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