第5話 ダンジョンの犠牲者
今日も犠牲者が出る。ダンジョンの中。俺は歩いている――いや、散歩に近い感覚だ。1人の女冒険者が困っているように見えた。ここは上層だから、彼女は低ランクの冒険者だろうと推測した。
「すみません、私とパーティを組んでいただけませんか?私は女だから誰も組んでくれなくて、しかもランクも低いんです」
「そうなのか?キミ、見た目は美人だから、すぐパーティに誘われるかと思っていたけどな」
彼女の名前はリゼッタ。金髪で、魔物の皮のベストに緑のシャツ、茶色のジーンズを着ている。何が“出てる”かは言うまでもない、兵士たちよ?
「そんなことないですよ。ところで、あなたのランクは?」
「俺の?……君よりも低い!」
そう。俺のランクは最低のブロンズだ。ちなみに彼女はシルバー、俺よりひとつ上だ。
冒険者にとってランクは憧れであり、強さの象徴だ。ブロンズは黄銅のバッジ――最低ランク。そして次にシルバー、銀のバッジ。まあ、中堅冒険者といったところか。その上には桁外れのゴールドバッジを持つ冒険者がいる。
妙なことに、ランクが高いやつが好き勝手に命令できるという、暗黙のルールが存在している。誰が作ったかは知らないが、変なルールだ。
現代社会で言えば、年功序列や、年下の先輩が威張る状況に似ているかもしれない。上の者がパーティを組み、下の者がついていく。まるで営業だ。ダンジョンを外回りと考え、成果をアイテムや魔物の素材と捉える。そう考えると、俺は最下層の主ということは、ダンジョン会社の社長という認識でいいのだろうか?
そうだとしたら、俺にしかできないこともあるはずだ。例えば、道案内とか?そう考えた俺はリゼッタを案内しようとした。しかし、彼女は俺を拒否した。
「しっし、お前に用はないわ。消えなさい」
あれ?さっきとは全然態度が違うけど、誰ですか?
「そうですか、案内しようかと思ってたんだけどな〜」
「えっ、いや、あの……ちょっと待って」
かかったな。カモだ。
「あなた、ダンジョンを案内できるの?この“生きてるダンジョン”を!」
「ああ、できるさ」
「じゃあ、最下層も?」
「もちろんだ」
「いくら?」
「うーん、実は相場がよくわからないんだ。教えてくれないか?」
「どうしようかなぁ……鉱石をひとつタダでくれるなら考えてもいいけど?」
「これでどうだ?」
「えっ!? ナルカライマ鉱石!? 初めて見た!これ、下層に行かないと手に入らないやつだよね?どうやって手に入れたの?」
ナルカライマ鉱石は、ダンジョンの異物から作られる。まるで貝殻が真珠を作るように、不要な栄養素が結晶化して純度の高い鉱石になる。それがナルカライマ鉱石だ。
「それは秘密だ」
「なんでよー?」
俺はスキル《ダンジョンマップ》を使い、リゼッタに行きたい階層を聞いてみた。
「それより、どこまで行きたいんだ?階層は?」
「目指すは最下層よ!!」
「……長くなりそうだな」
俺は、自分が最下層の主であることを隠し、通常のルートで進むことにした。彼女の実力を測るために、先頭を歩かせることにした。リゼッタは剣士だ。片手で持てるような剣を携えている。リーチは短いが、刃は鋭く、手入れが行き届いている。彼女がその剣を大切にしているのが一目でわかった。
その剣で、華麗に動くリゼッタは、物を次々と倒していく。低ランクにしては、かなりの戦闘力を持っているようだ。しかし下に行くごとに、リゼッタはだんだんと体力がなくなってきて、最下層まではとても行けそうにないと俺は判断した。
「リゼッタ、諦めた方がいいのでは?」
「いいえ、一攫千金よ。そうすれば、救える生命があるの」
リゼッタはダンジョンの最下層にあると言う噂の財宝が目的のようだ。しかし、そのような財宝は無い。ただの俺の貯金、そして一攫千金などできないのだから、ただの夢物語にしか過ぎない。
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