第3話 ダンジョン
―ダンジョンは生きている。そう。俺はその事実を何度も目の当たりにしてきた。時折、ダンジョンの壁から何かが出現するのを目撃することがある。まるでダンジョン自体が生命を持ち、人間を栄養として取り込み、そこから新たな存在を生み出しているように感じる。骸骨や冒険者の亡骸がそこら中に転がっていて、彼らが残していった装備やアイテムを俺は「もう使うことはないだろう」と思っていただくこともある。
ある日、壁から生み出されたモンスターが姿を現した。それは空想上の生物、グリフォンだった。鳥の頭、ライオンの身体、そしてペガサスのような羽根を持つ巨大な怪物だ。目が合った瞬間、グリフォンは俺を餌として認識したようだった。咆哮と共に、その獣は俺に襲いかかってきた。
俺は剣を抜き、静かに構えた。そして、一瞬の隙をついて一線を振り下ろす。次の瞬間、グリフォンの体は両断され、地面に沈んだ。あまりにもあっけない結末だった。倒したのに、まるで何の感情も湧かない。これでは、俺が強いのか、それとも相手が弱かったのか、全くわからない。
もっと強い相手と戦いたいという欲求が、俺の中で燃え続けている。
もっと強いやつと戦いてぇぇぇぇ!!
俺がこれまでに最も苦戦したモンスター、それは「バジリスクウッド」という迷宮の壁から出現する木の根のような触手を持つ怪物だった。バジリスクウッドは迷宮そのものと一体化しているかのようで、無限に触手を伸ばし、相手を絡め取る。それだけであればまだ対処はできたかもしれない。しかし、その触手は切っても切っても、再生するかのようにすぐに伸びてきて、こちらの体力を削ってくる。
最も厄介なのは、その触手の元になっている核だ。核は迷宮の奥に隠されており、それを破壊しない限り、触手は永遠に増殖し続ける。飛び道具のようなものがないと近づくのさえ困難で、俺は何度も触手に捕らえられ、ダンジョンの奥へと引きずり込まれそうになった。
しかし、俺は諦めなかった。触手を片っ端から切り裂きながら、その根源である核を目指して進んだ。無限に再生する触手に苦しみながらも、ついにその核を発見した時、俺は全力で触手を掴んで引っ張り、無理やり核ごと引きずり出した。そして、渾身の力を込めて剣を振り下ろし、核を貫いた。
―せあっ!!
―まさか、俺って強いのか?兵士たち?どうなのよ?
精神年齢は30歳過ぎてるけど、身体は20歳なんだけど。全然動けるからねっ!
―昨日まで、俺はその辺にいるチンピラにワンパンでやられていたのだから。
見た目は青年、中身はおっさん。そんな俺が生きるこの世界は、どんなに丁寧に謝っても、許してくれるような甘い場所ではない。法律など存在しないし、警察のような守ってくれる存在もいない。ここは、すべてが”なんでもあり”の世界。秩序も道理も、力が全てを決める。
強い者だけが勝ち、弱い者は這いつくばるしかない。それがこの世界のルールだ。どんな理不尽な状況でも、力さえあれば自分の意志を通せる。逆に、力がなければ、どれほど正しくても、どれだけの言い訳をしても、誰も耳を傾けてくれない。自分の身を守るのは自分しかいない。
―そうだよな?兵士たちよ?
ダンジョンは形を変える。よってマップなど意味はない。しかし俺のスキル「ダンジョンマップ」は優秀すぎる。形が変わったダンジョンでもちゃんとマップを示してくれる。
人が倒れていると黒印。人が毒になっていると紫。人がピンチの時には赤い印となる。
今マップを見れば、黒が3、赤が1。どうやらパーティメンバーが、隠し部屋に入って、モンスタートラップにハマってしまったようだ。
さて、これはワンチャンあるかもしれないな?
ハーレムの第1歩だ。いざ行かん!!
色の魔方陣の中にいたのは、期待に反して全員男のパーティーメンバーだった。俺は、せっかくここまで来たからには助けるしかないと思い、彼らの前に立った。
目の前には、牛の角を生やし、馬の顔を持った巨大なモンスター。その筋肉隆々の肉体が、両手に持つ斧を振りかざして、ただ一人残った男に迫っていた。
「こいつ、やばいな……!」
俺は咄嗟にその間に割り込み、斧を持つモンスターの攻撃をパリィで弾く。斧の一撃は凄まじいが、うまく角度を合わせて受け止めた。
「俺が来たからには、もう安心してくれ」
刹那の一閃で、俺はその牛馬モンスターの首を胴体から切り離した。あっけない一撃だった。首が地面に転がると同時に、魔法陣が消え、呪縛は解かれた。
「お、お前……化け物かよっ……!」
そう呟いた男は、俺の姿に恐怖を覚えたのか、感謝の言葉もなく背を向けて逃げ去っていった。
誰が化け物だっ!!
俺もその辺の冒険者と変わらないんだぞ。ただ、魔物を一撃で倒したからって化け物扱いされるなんてなぁ…」
そう呟きながら、俺は歩き続ける。確かに一撃であの巨大な魔物を倒したのは事実だが、俺にとっては軽い力を使ったに過ぎない。あんなバカでかい魔物が、あんなにも簡単に倒せるなんて自分でも予想外だった。
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