4-3 【視点A】主人公ボコボコタイム
「新たな勇者を導く、女神に選ばれし賢者。サイカ・ワ・ラノ。何か、言い訳はあるか?」
「言い訳……?」
レン先生に支えられて、ラノ君がヒイロさんを見上げる。いつもの仮面はつけていなかった。
「勇者を守る賢者がいながら、勇者アヤメは私の足元で無様な姿を晒しているようだ。君が、女神に予言された現地の協力者、魔法使いサイカで間違いないか?」
ラノ君はレン先生から離れ、その場に崩れ落ちるように跪いた。やっぱり、結界の中で女神様に何かされたんだ。いつも涼しい顔をしているラノ君が、今はひどく疲れた顔をしている。
「……お初に、お目にかかります。我は傲慢な狂信者、サイコワ。勇者アヤメ様の完璧な配下にして、唯一無二の……」
「完璧、か……程遠いな」
ヒイロさんがラノ君の言葉を遮り、ゆっくりと近づいていく。
「確かに勇者は、この世界を救う兵器だ。死ぬことはあっても、壊れることは許されない。その意志と存在そのものが、この世界に捧げられる生贄となる」
ヒイロさんが、ラノ君の胸倉を掴み上げた。ヒイロさんを止めないと……! 止めないといけないのに、私は立ち上がることすらできないでいる。
「女神の加護を持つ勇者が、初めて本結界を使えばどうなるか、魔力を使い切ればどうなるか、賢者サイカ、君なら予測できたはずだ」
「……」
ラノ君は、何も言わない。
「勇者アヤメを危険に晒しただけではない。女神の加護、魅了の波動に当てられたくらいで動けなくなるとは、期待外れにも程がある」
違う。ラノ君は私の、勇者の魅了は効いていない。結界で見たあの気配は、きっと女神様本人だった。どうしてかはわからないけど、あのタイミングで、女神様がラノ君に何かしたんだ。
「っ……ぁ……」
せめてそれを伝えようと声を絞り出そうとする。でもそれは言葉にならず、ただ乾いた空気が吐き出されるだけだった。
「勇者アヤメ。この不完全な魔法使いは、本当に君のベストパートナーか?」
ヒイロさんが、ラノ君を突き放す。
「ぅぁ……」
ラノ君が再び、その場に崩れ落ちる。
「女神の予言を疑うわけではないが、この男は未熟だ。勇者アヤメ、君は最悪の場合死んでいたかもしれない」
ヒイロさんがラノ君に背を向け、こちらに戻ってくる。その後ろで項垂れているラノ君の目には、涙が溜まっていた。
「っ……!」
そんなラノ君の顔を見たのは、初めてだった。いつもクールで、何事にも動じないラノ君が、泣いている。私が……ラノ君を泣かせてしまった。
「勇者アヤメ、今日は休め。彼が君に与えた絶望は、君の成長の糧となるだろう」
ソラとルリが手を貸してくれる。何とか立ち上がり、ヒイロさんやマシロ君と共にその場を後にする。
「今は一人にさせてやろうぜ。まぁ、近くにレン先生もいるし大丈夫でしょ」
マシロ君の言う通り、今の私がラノ君のそばにいたところで、何かをしてあげられるわけじゃない。
「ヒイロさん、ちょっと言い過ぎなんじゃないですかー?」
ソラがヒイロさんに、なるべく明るく軽い調子で抗議する。魔王を倒した勇者に物申せるなんて、やっぱりソラはすごい。
「私は事実を言ったまでだ。それに」
ヒイロさんは前を向いたまま、それを軽く受け流す。
「彼はまだ、女神の本当の力を知らない」
「女神様の……?」
「今回の教訓を経て、いつ何時も警戒を怠らない覚悟を、彼には今一度決めてもらう必要がある」
最後に見たラノ君の涙に、罪悪感が募る。
「……ラノ君……ごめんなさい」
ようやく声が出た。でもそれは掠れていて、みんなにはきっと聞こえなかったと思う。たとえラノ君に届いたとしても、もう意味もない。
「また、私は……」
今度こそ私は、ラノ君の隣に立つ資格を失った。
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