4-2 【視点A】魔力の枯渇は精神にマイナス思考を来す

「魔王を倒した勇者様だ……!」


「歴代最年少で魔王を倒したっていう、あの……?」


「最初の、勇者様……!」


残っていた町の人たちが色めき立つ。私と違ってヒイロさんには、一人目の魔王を倒したという実績がある。私なんかより人望も、実力もある。


「この時代最初の、召喚された勇者だ。魔王討伐も昔の話。この世界原初の勇者には、私では足元にも及ばないだろう」


「……っ」


その彼の足元で私は、魔物一匹倒すのに魔力を使い果たし立ち上がることもできないでいる。……情けない。勇者が、聞いて呆れる。


「おっと、もうあまり身体を動かさないほうが良いよ? その格好、一般市民のみなさんには目に毒だから」


ヒイロさんの黒いローブを握り締めていると、今度は聞き慣れた三人の声が聞こえてきた。一人は、ヒイロさんと同じ黒いローブを纏った、この時代二人目の召喚された戦士、マシロ君だった。


「女神の加護を有効活用するためなんだろうけど、ミイラのコスプレって。千歳、君って相変わらず大胆だねー」


「ぅ……」


さすがの私も、この格好はどうかと思う。昔ルリやソラと冗談半分で考えた、衣装というか、ちょっと飾りがついただけのただの包帯というか。でも、この格好のおかげで女神様の加護が強くなって、ヒノトリになんとか勝てた可能性も、否定はできなかった。


「ちょっとマシロパイセーン? 私たちって修行中のはずでしたよねー? 何でパイセンがヒイロさんと一緒にいるんですー?」


「あ、いやー、それは……」


マシロ君がソラとルリに詰められ、しどろもどろになっている。そんなマシロ君を庇うように、ヒイロさんが前に出た。


「修行……そうだったのか。であれば、戦士マシロにとっても我々の旅は良い修行になっただろう」


「旅……? そういえば、今回のヒイロさんの旅の目的って……」


ソラはヒイロさんに臆することなく、いつも通りの調子で話している。ソラはキュアソルのメンバーの中で最年少だったのに、その度胸には昔から頼りっぱなし。それはこの世界で、私が勇者になっても変わらなかった。もしソラとルリが召喚されていなかったら、とっくに私は……。


「そうだ。旧四天王の一人は滅びた。戦士マシロの偉業だ」


ヒイロさんが、町の人たちに告げる。


「い、いやー、俺、そんなに役に立ってたかなー?」


褒められ慣れていないのか、マシロ君は少し恥ずかしそうに焦っている。


「当然だ。新たな戦士が旧き四天王を葬った意味は大きい。これで魔王軍旧四天王、残るは一人」


「あと、一人……」


「旧時代の悪の絶滅は近い。次は、新時代の悪を滅ぼす」


次に告げたその言葉は、町の人々ではなく、ルリに向けられているような気がした。


「っ……!?」


ルリがその鋭い視線を受けて、身体を硬直させた。ヒイロさんの言い方を借りるなら、ルリは魔王軍新四天王の一人として召喚された、新時代の悪。そのことにヒイロさんは、もう気づいている……?!


「ですってー、町の皆さん。後のことは私たちと、ヒイロさんの討伐軍の方々にお任せください」


ヒイロさんの視線を遮るように、ソラがヒイロさんとルリの間に進み出て、町の人たちに呼びかける。ソラもきっと、ルリの正体に気づいている。それでいて、ルリのことを庇ってくれているんだと思う。


「……」


嬉しいはずなのに、胸の奥がズキズキと痛むやっぱり、ソラがキュアソルのリーダーになるべきだったのかな……。


「僧侶ソラ、彼らは私の軍ではない。戦士マシロと共にこの世界を救った、冒険者の有志たちだ。彼らも疲労が溜まっている。脅会に、増援を依頼した」


「脅会……?」


「本格的な復興は、明日の朝からだ」


ヒイロさんとソラが睨み合っているところに、今度はマシロ君が割り込んだ。


「と、特にお子さんのいる人はー、今夜くらい、家族で過ごしてあげてください、ね?」


町の人たちはヒイロさんの話と、ソラやマシロ君の呼びかけを聞いて、それぞれの家族のもとに帰っていく。ソラがマシロ君に、頭突きをしている。


「マシロパイセンやさしー!」


「ハハ……八雲、君には負けるかな」


「……」


ソラが不服そうにマシロ君を見上げている。ヒイロさんとルリの間には、まだ不穏な空気が漂っていた。そしてその空気のままヒイロさんが声をかけたのは、町の人たちと同様に立ち去ろうとしていた、二人の影。


「教師レン、少々お待ちを」


レン先生が、足を止め振り返る。


「……ご無沙汰しております、勇者ヒイロ。覚えていて頂けるとは、光栄の限りです」


ヒイロさんも、レン先生と面識があるみたいだった。まぁ、ユキ会長が元ヒイロさんのパーティーメンバーっぽいから、繋がりがあるのも当然だろうし。


「ご謙遜を。あなたの教えは、今も私と共に」


「恐縮です。それで、何の用でしょうか」


「彼と話がしたい」


ヒイロさんが、レン先生の隣に指を向ける。


「新たな勇者を導く、女神に選ばれし賢者。サイカ・ワ・ラノ。何か、言い訳はあるか?」

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