【7/3】 勇者は魔物に勝って当然なので戦闘シーンはカット
4-1 【視点A】一人目の勇者の帰還
「やった……」
夢にまで見たドームの舞台そっくりな結界のステージに、私はルリと、ソラの三人で一緒に立っていた。そして観客席でサイリウムを振って応援してくれた子どもたちや町の人たち、ラノ君やレン先生の声を力に変えて、私はみんなで、ヒノトリの討伐を終えた。
「アヤ!」「アヤパイセン!」
ルリとソラが駆け寄ってくる。私はその場で、膝をついた。
「さすがに、限界ね……」
この短時間で二度も魔力を使い切ったのは初めてだ。ほとんど私の魔力でできていた本結界が、音を立てて崩壊していく。
「クルミちゃん……」
消えゆく本結界の観客席をもう一度見渡す。観客席に召喚された私を応援してくれる人たちは、この町で出会った子どもたちのような、本物の、今も生きている人たちだった。クルミちゃんの姿は、見当たらなかった。
「あ、お母さん!」
結界が完全に解除されると、周りの景色が元いた夜の町中に戻っていた。結界の観客席にいた子どもたちがそれぞれの親御さんを見つけて駆け寄っていく。
「……」
町の消火活動は、もうすでに終わっているようだった。この世界の人たちの、何かあった時の対応力にはいつも驚かされてばかりな気がする。
「ママ!」
「良かった……無事だったのね」
「うん! 燃えてるお家から出られなかったんだけど、気づいたらみんなと一緒にアヤ姉ちゃんたちのところにいたの!」
「ルリ姉ちゃんも、かっこよかったんだよ!」
私は慌てて立ち上がり、結界の外にいた大人の人たちに頭を下げた。
「すみませんでした。お子さんを、危ない目に合わせてしまって」
「何言ってるのさ!あんたがうちの子たちを助けてくれたんだろ? なら、お礼を言わなきゃね、ありがとうよ」
「アヤちゃんありがとね、アヤちゃんはやっぱり勇者様だよ」
「アヤ姉ちゃんありがとー!」
そう言ってもらえるのはありがたいけど、私の中にはもやもやとした思いが残る。
「……」
私が本結界を使ったのは、今日が初めてだった。逃げ遅れた町の人たちを、私の結界の観客席に召喚することで火の手から助け出せたのは、偶然だった。
「私は……何も……」
しかもその結界の中では、町への被害を減らすために誘き寄せたヒノトリが飛び回っていた。一緒にいたラノ君やレン先生がみんなを守ってくれたから、どうにかなったけど……。
「そうだ、ラノ君は……」
私の包帯の魔法でようやくヒノトリを抑え込めた頃、どこからか現れた女神様の気配がラノ君を包んだのが視界の隅で見えた。レン先生が慌てていたのも見えたけど、それどころじゃなかった私たちはそのまま一気にヒノトリを倒し、そして今に至る。
「ラノ君……っ!」
レン先生に支えられて立ち上がろうとしているラノ君が目に入り、駆け寄ろうとした時、目眩がした。
「っ……」
まだ町の人たちが何人か周りにいる。勇者として、何とか踏ん張って倒れずには済んだけど、視界がチカチカと瞬いている。
「大丈夫? アヤ姉ちゃん……」
子どもたちの目が、心配そうに私を見つめる。
「ぁ……」
声がうまく出せない。やっぱり、この短時間で二度も魔力を使い切ったのはやりすぎだった……。
「当然だ。新たな勇者は、その全力を以てこの町を救ってみせた。心配は無用だ。少々、がんばりすぎたようだが」
「ぇ……」
ローブが勢いよく被せられ、私はその重みでその場に座り込んでしまった。見上げるとそこには、赤い軍服に身を包んだ、一人目の魔王を倒した一人目の勇者、一ノ瀬ヒイロさんの姿があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます