第56話

決め手は部活後の帰り道に送られてきたメッセージだった。


美月は誰に対しても誠実で優しく、練習初日のうちに自分とも連絡先を交換してくれていた。


そしてある日の放課後にそのアカウントから蓮の事を見て自分でも新しく筋トレをしてみようと思う、綺麗な姿勢になれるように頑張るからその姿を見ていて欲しい、とメッセージが来ていた。


自分を理由にして努力しようとしている人ができた。そう思うと蓮の自尊心がぐっと上がった。そして美月に対する気持ちも大きくなった。


自分なんかにも優しくしてくれる。自分のことを見ていてくれて自分のおかげで頑張れるとさえ言ってくれる。そして自分のことを見ていてくれと言ってくれる。


誰にもこれまで頼られてなんか来なかったのに自分を純粋に頼ってくれる。そう思うと嬉しかった。


そしてそれが恋心であると気づいた。




自分にも昔彼女はいたことがある。でもその相手は自分のことを見てくれてなんていなかった。見てくれがいい蓮のことをアクセサリーとして身につけているだけだった。


蓮は二人で過ごせることが幸せだと思っていたが彼女はそうではなかった。二人の時間なんてどうでもよくて、二人で歩くときに隣にいるのが見た目のいい男であれば誰でもよくて、それにその”自慢の彼氏”から高いものをもらっていることを更に自慢の種にしていた。


誕生日や記念日に高いプレゼントをしなくなるとそれに気づいた彼女の心はすぐにどこかに行った。




美月はあの女とは違う。自分の内面を見てくれる子だ。自分の存在を肯定してくれる子だ。自分の見てくれがいいから寄ってきて話しかけたんじゃない、練習中に自分の姿勢がいいことを見ていてくれてそれで自分がより上達できるように自分のことを頼ってくれたんだ。僕のことをアクセサリーなんかにはしない子だ。少なくとも僕と幸せを共有できる子だ。


蓮は昔の彼女の事がその瞬間に嫌いになった。普通に付き合っていると思っていた。仲がよかったとも思うし休日にデートに出かけることもあった。でも彼女は自分のことなどどうでもいい都合と見た目のいい男としてしか見ていなかった。そして自分が都合のいい存在でなくなった瞬間に自分の事を捨てた。僕が”自慢できる高いものをプレゼントしてくれるような存在”でなくなった瞬間に要らなくなったゴミのように捨てていった。



そう思うと美月への想いは大きくなっていった。


あの子は、元カノなんかとは違う。あの子こそが僕の隣にいるべき存在だ。


そのまま少し歪んだ恋心は日に日に大きくなっていった。

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