第50話

次の朝、美月をいつも通りに起こしておはようと声をかけた。


「おはよう蓮、今日早いね...?」


「ちょっと早く目が覚めちゃってね。朝ごはんできてるよ、食べられそうならおいで」


「行く行く、蓮の朝ごはん好き!」


朝食を向かい合って食べながら蓮は仕事の話をし始めた。先輩に君が追いつけるのか、それだけが知りたかった。


「そういえば最近仕事本当に順調だよね、先輩もまた何か言ってくれてる?」


「うん、昨日は特に話してないけど普通に仕事終えられたし今日は一緒に仕事するのが一件あるくらいかな、珍しいね蓮から仕事の話してくるの」


「美月があんまり嬉しそうに話すもんだからこっちも気になっちゃうんだよ。そういえばその先輩ってどれくらい歳上なの?」


「んー正確な歳は知らないけど多分3個上くらいかな? 怖いイメージがついてるせいでもうちょっと上に見えるけど多分年齢で言えばそれくらいのはず、入社時期的にも」


「へー、先輩って既婚者?」


「なに蓮妬いてるの? 既婚者じゃないよ、なんなら前俺はプライベートでもこんなんだから女は寄ってこないし仕事一筋としたもんかなとか言ってた気がする」


「妬いてるわけじゃないよ、単純な興味。どんだけ怖いのかと思ってさ。プライベートまで怖いならそれは納得、そういう人なんだね元々」


彼女は追いつけるのかもしれない。なら。

それでもその朝にそれを伝える勇気はまだ出なかった。


「そうそう、怖いけど優しいみたいな、でもよくよく見てないと優しいとこが見えないから全然彼女すらできないらしい。親には結婚しないのかってうるさく言われてたまったもんじゃないってさ」


「僕の上司にもそういう人いるわ、似てるのかもねその人と」


そんな話をしながら朝食を食べ終えて二人で準備に取り掛かった。


「よーし、今日もお仕事頑張るかぁ、ごちそうさまでした」


「お粗末さまでした」


そしていつも通りに行ってきますと言い合って会社へ向かう。行ってきますと言い合えるのはいつまでだろうか。


二人で朝を迎えられるのは、二人で朝食を囲めるのは、二人で居られるのは、いつまでだろうか。


その日の足取りは重かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る