第49話
蓮は美月が寝た後寝室を抜け出してリビングで電気もつけずに考えた。
美月に気付かせるには、美月が本当の幸せを手に入れるには、やっぱり僕が手を離すしかないんだろうか。
僕の傍にいたまま憧れて追いかけていくんじゃやっぱり駄目なんだろうか。
でもあの目は、美月のあの目は僕と付き合い出した時から僕に向けられていた目だ。
きっと先輩のことがもう好きで、そしてそれに美月は気づいていない。僕から気持ちが離れていっていることにも気付いていない。もし気付いたとしてもそれを見ないふりをしている。
そうさせておくことが彼女の幸せとは思えない。彼女には心から幸せで、世界中の誰より幸せでいて欲しい。
なら。ならその未来に貴女の隣にいるのが僕じゃなくてもいい。
その未来が明るく幸せなものなら僕の幸せなんてものはどうでもいい、彼女の幸せこそが僕の幸せだとずっと思ってきたんだから今回もきっとそう思えるはずだ。
彼女はきっと僕が言ったら、そしてそれに気付いてしまったら悲しむし後悔する。
少なくとも自分にそれを言わせてしまったことを深く後悔して、自分が僕のことを見ていなかったことに気付けなかったことに悲しむ。
それは本当に美月の幸せに繋がる道なんだろうか。二人で見ないふりをして一生生きていくのが幸せでもあるんじゃないのか。悲しませておいて、後悔させておいて幸せになって欲しいからだなんてそんな理屈は通じるんだろうか。
美月の幸せはどっちだ。どうすれば一番君は幸せになれるんだ。どうすれば君は一生を幸せに生きられるんだ。気付かない方が幸せなのか、気付いていつか追いつくのが幸せなのか。
そもそも気付いたところで追いつけるのかも分からない。美月から先輩が既婚者なのかどうかだって聞いていない。
もしかしたら彼女をまた一人きりに、孤独にさせて誰にも愛されないんだと思わせてしまうかもしれない。それは絶対にしたくない。もう殻に閉じこめることなんてしたくない、彼女には外の世界で自由に幸せに生きて欲しいんだ。
これが僕のエゴだとしても。
ただの自己満足だとしても。
僕がどれだけまだ愛していて欲しいと願っていたとしても。
君には幸せでいて欲しいんだ。
それが、それだけが僕の幸せなんだから。
だから、もし君が今好きな人に追いつけるんだとしたら。
僕はこの手を離そう。
その夜を蓮は寝ずに過ごした。
これまでの人生のどの夜よりも長く、日が昇ることなんてもうないんじゃないかと思うような夜だった。
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