第47話

段々と美月は先輩に褒められた話を嬉しそうに蓮に言う日が多くなっていった。


「ただいま、今日先輩に褒めてもらえたよ!」


その顔は前とはもう違っていた。少しだけ、でも蓮にとっては全く違うものだった。気付きたくなかった。でも気付いてしまった。


「おかえり、こっちもただいま。僕も仕事順調に進んでるよ、お互いに上手く進んでるようで何よりだね。先輩に褒めてもらえた話聞かせて」


「蓮もおかえり、仕事上手くいっててよかったね、私もその話あとでちゃんと聞きたい。……でね、先週会議中に思いついて提案してみたことがいいんじゃないかって話になってその方針で企画案を出すことになったの。それでその企画案の中心に発案者って事で入れてもらえて、その企画案を今日なんとか作りきって提出してみたの。

そしたら先輩がその思いつきからよくここまで企画作ったなって褒めてくれて、そのまま上手くいけばその案が通りそうなの。すっごく嬉しかった! ……で、蓮はどんな感じなの?」


「僕も実は前回やらかしたミスを後輩にやらせてたまるかって思ってね、新しくマニュアル作ったんだよね。よく間違えるようなところは注意書きして全員で共有して最低でもダブルチェックできるようにして。そしたら上司に前やったことから上手く成長したなって言ってもらえてとりあえず前回の落ち込みをどうにか挽回できたような気がするんだ」


「さすが蓮だね、やっぱり私が言ったとおり後輩が同じことして落ち込まないようにできるのが蓮のいいところだよ、しかもそれがちゃんと人の目にとまってくれたなら私も嬉しい。お互い頑張ってることが成果に出てきてるのが目に見えると頑張れちゃうね」


「そうだね、やっぱり褒めてくれる人がいるといないじゃ大違いな感じする。僕も今日褒めてもらってやっと報われたような気持ちになってるし。美月が毎日嬉しそうに帰ってきてくれるのも嬉しいよ」


「私も蓮が毎日頑張ってたことの成果が出たんだと思うとすっごく嬉しい、帰ってこられてよかったし蓮がいてくれてよかったなーって思うな」



美月は今が幸せなんだ。

愛しているからこそその変化に気付かないわけがなかった。それでもまだそれを言い出す勇気はなかった。ただの違和感としてやり過ごそうとしていた。

だって家に僕がいることを幸せに思ってくれている。帰れる場所にしてくれている。僕のことを愛してくれているはずだ。こんなに僕の成功を喜んでくれる。

それでも仕事が順調に進んでいるようで、背中を見て走れる人がいるようで、何よりだと諦めようとしている自分に気付いた。


こんなこと考えても仕方ない、僕にできることじゃない、でも美月の幸せは本当にこれなんだろうか。

日に日にその不安は大きくなっていった。

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