第44話

蓮の誕生日、美月は高いワインとケーキを抱えて家に帰ってきた。


「お誕生日おめでとう、私からは蓮みたいにお高いところには連れて行けないけど、でも生まれてきてくれて本当にありがとう。これまで長い間見てくれて、支えてくれた蓮がいるから毎日辛くても頑張って終わらせて家に帰ってこようと思えるの。それに蓮の隣に並べるようにもっと素敵な人になりたいと思えるの。蓮がいてくれて今すごく幸せなの。ささやかだけど私からの感謝の気持ちを受け取ってください」


箱の中から出てきたのは蓮の好きなチョコレートケーキワンホールだった。


「ありがとうだけど二人でこんなにケーキ食べられないよ、明日に残してもいい? うわ、ワインもこれすごい美味しい高かったでしょ」


「ケーキなんて残してもいいからどうしてもワンホール買いたかったの。パーティーしたかったの。そのワイン蓮が生まれてきた年のワインなんだよ、同い年のワインだよ……あ、ほんとだ美味しいね」


「うわあ同い年のワインか、年取ったの感じるなあ、お前も感じてるのかそこのワイン君」


「年取ったって言ったってまだ二十三歳じゃん、まだまだ新卒若者だよ、私も同い年なんだから年取ったとか言わないの、ただでさえ蓮顔いいんだから若く見えるしさあ」


「美月こそ若く見えるよ、大学入った頃の写真と全然変わらないじゃん。むしろその頃より垢抜けて綺麗になった感じさえするし。うわこれほんとに美味しい、彼女と過ごせてワインもケーキもあって今僕世界一幸せ」


「前蓮が世界で一番幸せな日であって欲しいみたいなこと言ってたから私もそうであって欲しいと思ったの。……で、プレゼントなんだけどこれ」



そう言って美月が取り出したのは腕時計だった。


「え、これ最新モデルの僕が見てたやつじゃん、なんで僕がこれ欲しかったの知ってるの。大体これ高かったでしょ」


「蓮がサイト見てるのをね、後ろから寝てるふりしてそーっと見てたの。気付かなかったでしょ。で毎週見てるから欲しいんだろうなあって思って、蓮が自分で買っちゃう前にプレゼントしたくって買ったの。まだ持ってないよね? 私もお給料ちゃんともらってるからその辺は心配しなくていいんだよ、私だってお高いものもらったし」


「まだ買ってない、全然買う勇気なくて手出せずにいたから嬉しい。うわやっぱりこれすごいかっこいい、本当にありがとう、毎日付けて会社行く」


「私からも毎日付けていけるものがあげたかったんだ、私と蓮がペアリング付けてるみたいに。……で、男の人にあげるなら腕時計だったら使えるかなと思って」


「使う使う、見る度に美月のこと思い出すねこれは間違いなく。僕一人だったら買う勇気ないままだったかもしれないからもらえるなんて思ってもみなかったし夢みたいだ」


「そう言ってくれるとお仕事頑張った甲斐もあるなあ、夢じゃないよ顔引っ張ってあげようか?」


「遠慮する、夢だったら残念すぎるから夢ならいっそ夢のままでいいくらいだし」


「夢じゃないよ現実で幸せ感じて欲しいからいいんだよ、……蓮の一番幸せな日になった?」


「なったに決まってるでしょ。ただでさえ今年の誕生日平日だったから残業なしで二人で過ごせるだけで幸せだと思ってたのにこんな素敵なものまでもらっちゃってしかも彼女も幸せだって言うし、美月が幸せなら僕も幸せだから」


「その言葉大好き、私も蓮が幸せなら幸せだよ」


結局ワンホールのケーキは蓮がもらったからには全部食べたいと言い出して二日目には綺麗に片付いた。大量の生クリームを口に突っ込んだ蓮はしばらく動けなくなった。

それでも誕生日が二日目に入ったみたいだね、と二人で笑い合った。


二人はその時幸せの絶頂にいた。

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