第39話
しばらくしたある日、蓮がうなだれて帰ってきた。
「ただいま美月、今日僕も上司に怒られた。……頼ってもいい?」
「おかえり、蓮。もちろん、”家に帰ってきてくれただけで満点”なんだからいくらでも私にできることならなんでもさせてほしい」
「傍にいてほしい、それだけでいい」
「話聞かなくていいの? 傍にいるだけなんていつもと変わらないじゃん、それじゃ私何の役にも立ててないよ」
「帰れる先を作っててくれただけでいいんだ、ただちょっといつもより傍にいたい。落ち込んでるところなんて本当は恥ずかしくて見せたくないくらいなんだけど」
「部活で一緒に落ち込んだことあるじゃん、今更だよ。それに前何かあったら存分に頼ってくれるって言ってたじゃん。……ねえ、やっぱりよかったら話聞かせてくれない? 嫌ならいいんだけど」
「じゃあ申し訳ないけど甘えさせてもらう。……実は仕事が最近立て込んでてさ。重要案件だったの一つ締め切りすぎてから見つけて会社中大騒ぎになって。
でそれが僕の入力ミスで来週納期になってたんだよ。そのせいで今日になるまで誰も気づかなくて、今日になって先方からどうなってるんだって連絡が来てそれでほとんどの社員が仕事放り出してどうにか進めてそれでも一日潰れて」
「そっか、辛かったね、今日も無事に帰ってきてくれて、……私のこと頼ってくれて、ありがとう。
やっぱりきっと新人のミスってあるものだって前蓮が言ってくれたみたいに予想しなきゃいけないことだしさ、ダブルチェックしなかったのも悪かったんだよ」
「それでも僕のせいでそれまで待っててくれた先方にも一緒に働いてる同僚にも先輩にも上司にも迷惑かけた、僕がもっとしっかりしてたらこんなことにならなかったはずなんだよ」
「反省できるのもいいこと、なんだよ、蓮。大丈夫だよ、蓮は絶対に今回のミスで学んでもっと成長する。今度は私が保証する、蓮はそういう人だから大丈夫。
私も恋人としてじゃなくても四年間蓮のこと見てきた。蓮は絶対今回のことバネにするし、今回みたいな事を新人が次に起こさないようにちゃんと確認してくれる先輩になる。
きっとプラスマイナスしたら会社にとってプラスになるような事を絶対にする。それでも駄目だったら私が家にいる。どんなに失敗しても辛くても帰ってこられる場所になる。だから大丈夫だよ、蓮」
「美月に言われると本当にそんな気がしてくるから不思議なんだよな、やっぱりずっと憧れてきた人だからかな」
「それなら嬉しい。私が好きな人の頑張れる意味になるならそれは私の誇りだよ」
蓮が間違えて落ち込んで帰ってきても美月は蓮を見捨てたりしなかった。”帰れる場所”で居続けてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます