第38話

その次の月の休日には気晴らしに二人が好きなバンドのライブに行った。


次々と流れる音楽に、そしてサプライズで用意された最新曲に二人とも目を輝かせた。隣にいる美月がこれ以上なく幸せそうで、それを見て蓮も幸せな気分になった。


帰って来るなり美月は大声でバンドの最新曲を歌い出した。


「ちょっと美月ここ賃貸なんだから隣に聞こえる、声がドームの中のそれのまんま」


その瞬間に美月の歌声が囁き声になって蓮は吹き出した。


「ねえ何で笑うの、だってお隣さんに聞こえてたら迷惑だし恥ずかしいから小さい声にしたのに」


「いやだってあまりに囁いてるから。いくら聞こえるって言っても加減ってものがあるしそれでも歌いたいんだと思うと面白くって」


「でも最新曲よかったじゃん、歌いたくなるじゃん、でもカラオケに出るのはきっと一ヶ月も二ヶ月も先じゃん、道ばたで歌ってて後ろに人いたりしたら恥ずかしくて死んじゃうしさ」


「そうだね、そうだね、でもかわいかったからつい」


「かわいかったって言えば許されると思ってるとこあるでしょ蓮。蓮だって鼻歌歌ってたじゃん」


「え、嘘、僕歌ってた? 全然そんなつもり無かったんだけど」


「電車降りたときからずっと歌ってたよ、楽しそうで止められなかった。なんか幸せそうだなあって思ったら私も幸せになっちゃって」


「全然気づかなかった、ていうか帰り道結構人とすれ違ったじゃん、せめてその時に教えてよ。聞かれてたと思うとすごい恥ずかしいんだけど。僕そんなに歌上手くないし部活でも歌合わせはかなり外してたじゃん。……美月こそそれ言ったら許されると思ってるでしょ」


「だってほんとだもん幸せそうでなんか止めたらかわいそうだと思ったんだもん。それより今日のライブの話しよ、アレンジすっごいかっこよかったよね」


「そうそう、あの曲に更にアレンジ加えてくるとは思わなかった。もう既に完成したものをぶち壊して更に予想の上をいってた」


「本当にそれ、やっぱり大学生の頃から好きでよかったなって思った」


「そうだね、古参のファンでいられたのは本当に何よりって感じだ」



元々趣味は二人とも同じだったのでその後も話は盛り上がりに盛り上がり、その夜は語り合って疲れて眠りについた。

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