第36話
「蓮、私今日先輩に怒られた……」
ある日美月がもう半泣きの状態でレジ袋を持って帰ってきた。オロオロしながらもなんとかソファーに美月を座らせて冷蔵庫にものを詰め込みながらミルクを温める。
ようやく終わって蓮がホットミルクを持ってきた頃には美月はクッションに頭をうずめてしゃくり上げていた。
なんとか抱きしめて話を聞き出した。
「私が全部悪いの、全部悪くて、分からなくて、分からないところ、先輩に聞く勇気もなくて、そのまま仕事進めちゃってそしたら、もう、取り返しつかなくなってて、
……取引先の人からすごいクレームが来てて、それも先輩が全部処理してくれてて、でなんで分からないときに相談しなかったんだって怒られて、でも本当にその通りでしかなくて」
「そっかそっか、頑張ったね辛かったね、よく一日やりきって帰ってきた。
先輩も聞きにくい状況にさせてたところに非はあるし新人なんて僕が言うのもなんだけど失敗して当たり前だから。
部活で後輩がやらかしたときも怒りはしたけどその後美月自分がちゃんとしてなかったからだって悔しがってたでしょ?
それと同じだよ、大丈夫。とりあえず無事に帰ってきてくれてありがとう」
「やめて甘やかさないで、私、今甘やかされたら、もっと駄目になっちゃう、どうしよう、怖い、もっと駄目な私になったら、蓮にも見捨てられたら、わたし、もう生きていけない、」
「見捨てたりしない。美月は会社でもう十分怒られてきた、家で僕ができることは美月がどんなに辛くても帰れる場所を作ることだよ」
「でも、悪かったのは私で、責任だって私にあって、その責任さえ、取らせてもらえなかったのも、悔しくて、辛くて、責任も、取れないのが、自分が未熟だって言われてるみたいで、」
「悔しかったね、辛かったね、反省できるところは僕がずっと尊敬してきた美月のいいところだ。
でも美月の”仕事ぶり”がよくなかっただけで美月自身がよくないわけじゃない。悪かったと思うところがあるなら次に生かせばそれが一番の先輩への恩返しだよ。
僕は無事に美月が家に帰ってきてくれたらそれだけで満点なんだ。
だからちょっと落ち着こう、大丈夫、大丈夫。美月はできることをちゃんと頑張った。ちゃんと無事に帰ってきてくれた。大丈夫」
「大丈夫大丈夫、……だめ、やっぱり苦しい、甘やかされてまた次も同じ事しちゃったらどうしよう、そしたら、もう私耐えられない、」
「僕の知ってる美月はそんなことしない、僕が保証する。それでもまた上手くいかないことがあっても帰ってきてさえくれれば僕がいる。
……美月がそれで頑張れるのかは僕にも自信がないけど、それでも僕がいるし話を聞いて傍にいて抱きしめることはできる。大丈夫、よく帰ってきてくれたね」
美月は蓮の腕の中で泣き出した。一日仕事で辛いことがあっても泣かないで家に帰ってきた美月はやっぱり強かった。
美月が落ち着く頃にはミルクは冷めていた。
「あっためなおしてこようか?」
「んーん、いい。大丈夫。……甘い、美味しい。ありがとう、蓮がいてくれて本当によかった。私明日からまた頑張る」
「そうだね、でも無理はしないでね、辛かったらまだ僕に頼ってくれてもいい」
「……じゃあもうちょっとだけ」
そうしてその夜は美月の涙の跡が消えるまで蓮の腕の中にいた。美月はそのまま泣き疲れて腕の中で眠って、蓮が美月を抱えてベッドに横にした時に最後の一滴が頬をつたった。
それをすくいとってゆっくりと髪を撫でてから二人で眠りについた。
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