第34話

それからの日々は幸せだった。大学を卒業した二人はそのまま大学近くの企業に就職を果たし、新居での二人きりでの生活が始まった。


「今何時……嘘ちょっと待ってやばい、美月遅刻する起きて、遅刻するから、もう八時だよ、美月、美月起きて早くもうやばいから」


「……嘘、やばいやばいやばいご飯諦めるメイクしていってくる起こしてくれてありがとうおはよう着替える」


「おはよう僕も着替える、……ねえ美月靴下知らない?」


「あ、昨日私のとこで見かけたからこっち探して、多分どっかにある、やばい今日会議の日だ新人が遅れるなんて許されないめちゃくちゃ怒られるやばいやばい」


「……あったよし靴下履いた着替え終わった、ひげ剃りしなきゃ、ちょっと美月洗面台どいて」


「無理に決まってんじゃん今メイクの真っ最中で、あっちの姿見使って、ああもうアイライン諦めようマスカラしたらそれなりに見える、はず、ていうかそうであれ」


「髭剃り残してない?」


「大丈夫、のはず、いつも通りかっこいいよ蓮ならいける」


「やっつけ仕事すぎるでしょ、ちょっとほんとに大丈夫なのこれ」



「行ってきます」二人でそう言って職場に急いだ。結果二人ともギリギリもギリギリのセーフだった。


帰宅してから二人で仕事に間に合ったことを確認し合ってハイタッチをした。


「いつもより遅かったけどそれでもあの時間に目覚めてくれてほんとありがとう、先輩めちゃくちゃに怖いで有名って聞いてたから助かったー」


「いや僕も美月に靴下の場所教えてもらわなかったら駅中のコンビニで買った上に遅刻する羽目になってたね、助かった」


「私達相性ぴったり、ってここで言うのも違うか、でも怒られなくて済んだし助かったから今日は蓮の好きなハンバーグ作るつもりで買い物してきた」


「うわ、最高。美月のこと起こしてよかったー、朝見捨てなかった僕に感謝」


「え、見捨てる気が一ミリでもあったんならハンバーグにするのやめるけど」


「自分が起きた瞬間に起こしたに決まってるじゃん、じゃなきゃもっと僕余裕あったって」


「確かに、やっぱり蓮優しい。私幸せ。蓮は幸せ?」


「僕の幸せが君が幸せなことなの。何回も言ったでしょ? 僕は今でも美月と一緒に暮らしてるのが不思議なくらいなんだから」


「実はそれ聞きたくて言っちゃった。その言葉大好きなの私。でももう二ヶ月も経つんだからそろそろ慣れてよ、私がいる生活に」


「幸せすぎて耐えられないんだよ、美月はそういう気持ちになったことないの?」


「あるけど……」


「元彼のことなら気にしてないしその期間があったから僕は成長できたんだから遠慮しないの」


「ばれたか、でも今も幸せだし蓮とこれから先一緒にいたらもっと幸せになれる気がする」


「僕にとっての最高の言葉だね」


「ちなみに今も最高に幸せでどうしたらいいか分からないくらいだよ?」


「もっと最高じゃないか、ハンバーグ楽しみにしてる」


美月が蓮に向ける目は、照れたような幸せな、あの日先輩に向けていた目と同じ目だった。

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