第31話

「蓮、あのね、先輩と別れることにしたの」


そのメッセージが飛んできた時、また美月は幸せになれなかったんだという悲しさと自分のところにチャンスが回ってきたんだという嬉しさで複雑な気持ちになった。


それ程に蓮は美月を愛していて、そして優しかった。すぐに美月に電話をかけた。




「もしもし、蓮です。いきなりかけてごめんね、でもちょっと不安なんじゃないかって思ったから。……自分のこと大事にするって決めたなら尊重するよ」


「もしもし、電話ありがとう。美月です。やっぱりちょっと不安だからかけてかけてきてくれて助かった。ちょっと声聞いたら安心した。


なんか自分のことを選んだの自分ばっかり可愛いみたいでちょっと複雑なんだけど、でもやっぱり先輩にはきっともっと合う人がいるんだし私にもきっともっと合う人がいるんだって思ったの」


「自分ばっかり可愛いなんてそんな事ない、美月は好きな人のためにこれまで我慢してきたんだから自分のことをもっと優先して考えてもいいんだ。


相手のために尽くしてきたんだから今度は美月が幸せになる番なんだ」


「そっか、そう考えてもいいのかな。大切にされてたのはすごく伝わってたしやっぱりちょっとまだ未練がある気もするけど、でもこれで正解だったんだと思う」


「美月が正解だったと思えたんだったらそれが正解なんだよ、それ以外ない。だって恋愛ってお互いに対等にするものでしょ?」


「そう、だよね。一つ年上だからって恋愛関係であっちだけが上って訳じゃないもんね、本当なら対等なはず……だもんね、これでよかった、んだよね」


段々と言葉に詰まっていく。美月はしばらくして泣き出した。


「本当にこれでよかったのかなあ、私のことこれ以上大切にしてくれる人なんてもういないんじゃないかなあ、あんなに大切にしてくれた人のこと裏切っちゃった。あんなに幸せだったのに、あんなに大事で好きだって伝えてくれたのに応えられなかった。もう、もう私何度も失敗してる。もう、好きな人を傷つけるならもう、恋愛なんてしない方がいいんじゃないかなあ」


「美月、落ち着いて、大丈夫。……僕がいる」


それは四年をかけてやっと口に出せた言葉だった。


「僕がいる、誰より大事にする。弱みにつけ込みたいわけじゃないんだ、でもこれ以上美月が恋愛で苦しむのは見ていたくない。


ずっと、……ずっと好きだったんだ。一年生の頃からずっと。


君がいたから僕は部活だって勉強だって君の隣に並べるようになるために最大限頑張れたんだ。答えは今すぐじゃなくていい、さっきも言ったけど弱みにはつけ込みたくないんだ。だから、少なくとも君のことは僕が見てるし大切にするから、恋愛ごと諦めるなんてしないでほしい。


美月に、幸せになってほしいんだ。もちろん今の時代恋愛なんてしなくても幸せにはなれる、それでも誰かに、それが僕じゃなかったとしてもいいから、愛されてほしいんだ。お願いだから諦めないでいてほしい」


美月はしばらく黙ったままだった。


「ごめん……なさい、ずっと見てきてくれたのにそれに気づきもしなかった」


「謝る必要なんてない、僕が言えなかっただけなんだ。今美月に望むのは告白の返事でも謝罪でもない、目の前の恋に絶望しないでほしい、それだけなんだ」


「分かった、ありがとう。……今は返事、できないけど、それでも諦めない。ありがとう」


「うん。じゃあまた部活で」


「じゃあね。ありがとう」


そこで電話は切れた。

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