第26話

十数分後に走って戻ってきた美月は目の前でパンと手を合わせて言った。




「蓮ほんとにごめん、先輩に聞いたらどうしても不安になっちゃって私が寝てる間に男の子の連絡先全部消しちゃったんだって。


すごく申し訳ない、私のせいで不安にさせちゃったよね、本当にごめんなさい。


で先輩に蓮も他の友達も大事な友達で好きなのはちゃんと先輩ですって伝えたら勝手に消して本当に悪かった、もう絶対しないし設定もよかったらもとに戻してくれって言われたの。もしも面倒なら次会ったときに自分で戻させてくれって。


先輩すごくすごく私のこと大切にしてくれてたみたいで、だからこそ不安になっちゃって、でも年上だからそれを悟られるのにも抵抗があって私に言えなかったんだって。


でも大事な友達がいるのはちゃんと考えたら私にとって大切なことだし、誰とでも分け隔てなく関わる私のことを好きになってくれたからもう友達に関して口出したり絶対しないって言ってくれたの。


蓮には何の落ち度もなかったのに不安にさせちゃって本当にごめんなさい。許してもらえる……?」




「もちろん、美月に嫌われたのかと思って心配してたからそうじゃなくてよかったし彼氏さんとも上手く話せたなら何よりだよ。


許すも許さないもそもそも美月のせいじゃないんだし、彼氏といるときにスマホ置いていくことなんて普通のことでしかないし全然いい。むしろ持って行く方が不自然なくらいだし」




「よかった、もう嫌われちゃったかと思った……全部ブロック外すからまたいつもみたいに何でもない話もしてくれる?」




「もちろん。僕でよかったら僕が美月と話したいんだ。


僕がたまたま気づいたのが早かっただけだから、他の男子には謝らなくてもいいと思う。


それでも気になるようだったら機種変してちょっと不具合が出たとでもどっかに書いておけばいいよ。もう大丈夫そう?」




「うん、何から何までアドバイスくれて本当にありがとう……」




「いやいや、彼氏さんも、ていうか先輩も、美月のことが好きで好きで仕方なかったからやっちゃったってだけだし仕方ないよ。これまで通り話せるならそれ以上ない。……あー、緊張してたの一気にほぐれた、今日部活来るのも怖かったんだよね実は」


「うわー本当にごめんなさい」


「いやごめん違う、謝らせたかったんじゃなくて安心したの伝えたかっただけだから。もう謝んないで、今のは僕が悪かった」




「そう? 申し訳ないなあ、私恋愛のことになると蓮に甘えてばっかりだなあ。いっつも話聞いてくれるから女子にも話さないようなことまで言えちゃって。いつもありがとう」


「全然いい、甘えてくれたら僕も頼られてる気がして嬉しいから。……よし、一区切り着いたことですし練習しますか。今日何する?」


「『威風堂々』の序盤。あそこだけまだよく音が狂うからそこの練習したい」


「入学式も近づいてるしね、よしじゃあ僕たちみたいに入学式に釣られてくる部員集めるために練習しよう、よし切り替え」


「切り替え。おっけい練習しよ」



その後は久しぶりに二人で音楽の話をしながら帰った。

心配していたことが美月の意思ではなかったと分かってその後の練習も会話も弾むように進んでいった。


ああよかった、僕は嫌われてたんじゃない。ただ彼氏が大切にしすぎただけだ。


大切にしてくれる彼氏がいるなら美月にとってもそれはいいことなんだからこれ以上のこともない。愛されてるなら僕は友達のままでもいい、きっといつかまた僕にも違う恋ができるときが来る。そう思ってその日は家路についた。

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