第24話

月曜日になった。美月は練習に来るだろうか。部室の扉を開けることさえ、そこに彼女がいることを確認することさえ怖かった。それでも彼女に会って話がしたかった。


部室への階段を一段上る度に引き返してしまおうかと悩んだ。一段上がる度に緊張して動悸がした。自分の鼓動がどんどん早くなっていくのを感じた。


それでもなんとか部室にたどり着いて扉を開けた。今日いつも通りならこの時間には美月しかいないはずだ、後輩達は五限まで授業が入っているはずだしそもそも自主練習に月曜日に来る人も少ない。どうかいてくれ、どうかいないでくれ。その両方の考えが浮かんだ。


そこには楽器の調整をしている美月がいた。


交響楽団が使っている部室は古い。その扉を開けたギィという音で美月が振り返った。


「蓮今日も早いね! でも今日は私の方が早かったな、蓮に負けたくなくて講義室からここまで走ってきたもん。走ってきた甲斐あったな。もうすぐ調整終わるから練習できるよ、今日は何の曲練習する? 一緒に練習しよ」


そこにいたのは土曜日までと何ら変わりのない美月だった。安堵が押し寄せてくる。僕はまだ話させてもらえるんだ。


「え、美月僕のこと嫌いになったんじゃないの? 僕何したのかと思ってこの土日も授業中もすごい緊張してたんだけど。連絡一切来ないし」


「え、どういうこと? 連絡してこなかったのは蓮の方じゃん、いつも返信早いほうなのに珍しいなって思ってたの」


二人で首をかしげた。どういうことだろう、二人が二人とも連絡をいきなり切られたのは自分だと思っている。


「他の女子とは連絡取ってたって聞いたんだけど」


「取ってたよ、普通に部活の話もしたし授業の話もしたし」


「えっと、ちょっとまって。美月は僕からいきなり連絡が来なくなったと思ってたって事でいい?」


「うん。もしかして蓮もそう思ってたってこと?」


「そう。だって連絡取ろうにも全部のアプリから美月のアイコン消えてた。電話番号だって覚えてなかったしかけられなくて」


「え、嘘ほんとに? ちょっと待って確認する。……え、ほんとだ全部のアプリで蓮のことも他の男子メンバーのことも知り合いだった男子の事もブロックされてる。何でだろう、ニュースでスマホの通信の不具合とかあったっけ」


「いや、僕が知る限りはないかな。僕が見てた限り土曜日の夜から連絡取れなくなったんだけどなんかの新しいセキュリティーアプリ入れたとかそういう心当たりない?」


「全然何も入れてない。土曜日の夜は先輩のおうちでいつもと同じように二人で過ごしてたし、通信も途切れたりしなかった。心当たりになるような更新もしてない」


ならもしかして。蓮の考えたことを美月に伝えるべきかどうか悩んで、それでも伝えることにした。

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