第16話

その頃もう交響楽団では辞めていった一年生以外のほぼ全員が先輩のような音を鳴らせるようになっていた。


その中でも自主練習を重ねていた蓮と美月は学年の中でもトップクラスになっていた。


その時もうすでに二人は二年生に上がっており、後輩もできていた。


「最初は難しいと思うけど諦めないで少しずつでも練習を続けていけばちゃんと綺麗な音が鳴らせるようになるよ、まずはこの姿勢で基礎練習をこなせるようになるところから始めようか。うん、そうそう。疲れたら休憩してもいいからね。あと水分取るのも忘れないでね」


「先輩ありがとうございます、先輩みたいな音色になるように私頑張ります」


「そう言ってくれると僕たちも嬉しいな、こちらこそありがとう。憧れてもらえるように僕たちももっと頑張るよ、じゃあまたちょっとしたら様子見に来るね」



二人とも指導が厳しいと噂の立つほどの先輩の下で練習してきていたため、後輩に同じような思いをさせてしまわぬようにとできる限り優しく後輩に教え、分からないことや悩み事があれば何をしているときにでも聞きに来ていい、といっていた。


そのため実力がある上に優しく指導してくれる先輩がいると評判になり、バイオリンだけでなく他の弦楽器の後輩も二人に教えを請うようになっていた。


その頃になっても二人は最後まで残って自主練習をするのを止めなかった。美月に関してはいつテニスをしているのかと不思議に思うくらいに楽団の練習に参加していた。


大学二年生の秋に入る頃、二人は先輩を抜いてソロを任されることもあるようになっていた。


それでも毎日のように練習に来て先輩の指示は確実に聞いて素直に飲み込んでいった二人は先輩からの反感を買うこともなく、練習を重ねて飛び抜けて上手くなった自慢の後輩とすら思われていた。


蓮は最初のうちこそ美月に自分のことを見てもらうために練習に打ち込んでいたものの、今ではもう純粋に演奏が楽しくなっていた。

日に日にできるようになっていく曲が増えることも、以前はどうやってあんなに早く手が動いて正確に音を鳴らせるようになるのか不思議だった曲が自分でできるようになったことも嬉しかった。


美月の為だけじゃない、もう僕は音楽にのめり込んでいるんだ。そう思うと美月への執着が少し軽くなったような気がした。

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