第8話

それから三ヶ月ほど経ったとき、蓮は”仲のいい友人”にまでは昇格していた。


部活が終わってもたわいもないはなしに付き合ってもらえる程度にはなっていたし、連絡だってお互いの趣味の話ができるくらいには発展していた。


そしてある日蓮が見てショックを受けた写真が彼女のSNSから消えた。次の日から美月は部活にブレスレットをしてこなくなった。

毎日彼女のSNSを見ていた蓮はすぐに気づいた。


どこの誰かも分からない、だがきっと高校以前からの関係だった彼氏と美月は別れたのだろう。


そう思うと心配と一緒に少しの安心が押し寄せてきた。美月はどんなに円満な終わりでもきっと多少なりとも傷ついているのに自分はそれに安心している。そう思うと自分の器の小ささに腹が立った。


やっぱり彼女の隣に立つのに自分はふさわしくないんじゃないか。だって自分は彼氏と別れて少しは泣いたかもしれない彼女のことを思ってそれでも嬉しさを感じている。

もっとそれを一緒に悲しめるような人間じゃなければ彼女の隣には立てないんじゃないだろうか。


好意なんてきっと誰とでも優しく接する美月はいろんな人から持たれている。


そしてその気持ちが一番大きいのは自分だと、きっと全員が思っている。


他に何も持っていないけど貴方への気持ちだけは一番ですなんて何を持って言えるんだろうか、そんな告白をした裏で自分が後ろめたい気持ちを持っているというのに。


それならせめて一番ふさわしい人になってからじゃないと彼女の隣になんて立てない。


「彼氏との写真全部消えてたけど別れたの?」ーーさすがにこんなことを訊いてしまったらデリカシーのかけらもない男として認定された上に自分の心の傷をえぐってきたと思われて自分から離れていくだろう。彼女はきっとその話をされたくない、少なくとも男である自分には。


自分が彼女と別れたときだってその話を軽々と聞いてくる人に好感は持たなかった。人の不幸は蜜の味、なんて言うが自分の不幸をネタにして来るんじゃないかと思ったら誰だって嫌がるだろう。彼女は優しいから話してくれるかもしれないが、せめて彼女が話したくないことは訊かない男でいたかった。


それでも、いつか自分が隣に立てるような男になれたという自信がつく頃には美月が振り向いてくれるかもしれない。


それなら僕にできるのは彼女の気持ちを察してそれを尊重することだ。告白だって女子からするのは嫌だって言う人もいるだろう、それならいつか告白できるような自信を付けなければいけない。


蓮は美月の隣にいられるような自分になるために講義も部活も今まで以上に力を入れるようになっていた。そしてそれに結果も伴い始めていた。

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