第5話

その日から蓮は美月のことばかり見つめるようになっていった。ちょうど合奏で前の席に座っていた美月の姿勢はどんどんと綺麗になっていった。勇気を出して自分から話しかけにも行った。


「姿勢先週よりずっと綺麗になってるよ、筋トレ結構頑張った?」


「え、嬉しいな、見ててくれてありがとう。


実は中高とテニスしてて元々は背中の筋力も多少はあったはずなんだけど、受験期の一年間で衰えてたみたいで前まで軽々こなしてたメニューが全然できなくなってるって気づいたの。


それでこの一週間は結構ちゃんと練習して姿勢やっとよくなってきたかもって思えてきたところだったの。


今も実は筋肉痛がちょっときついんだけど、見ててくれる人がいたなら頑張ったかいがあったな、蓮君ありがとう」


「いやいや僕なんかでよかったらいつでも全然。合奏中もほんと綺麗になったなと思って、普通に歩いてきたときの姿勢もピンとしてて前より綺麗になってたし」


「蓮君そんなに自分のこと卑下する必要ないよ、だって今一番綺麗に音ならしてるの蓮君だと思うもん。


でも歩いてきてるときの姿勢まで見られてたのか、それはちょっと恥ずかしいな。……さては私のことずっと見てたな?」


「美月さんが見ててって言ったんじゃん、そんなに四六時中眺めてるわけでもないよさすがに。僕だって楽譜と指揮者交互に見るので精一杯なんだから」


「それもそうだ、私の自意識過剰だ、恥ずかし。


でもありがとう。言ってくれる人がいるともっともっと頑張ろうって思えるし今言ってくれたのすごいモチベーションになった。


私もまた蓮君のことみててなんか気づいたことがあったら言うね、個人練習の間にわざわざ来てくれてありがとう。私もうちょっと頑張ってみる」




本当は基礎の合奏中も目の前にいた美月のことをできる限りずっと見ていた。でもさすがにずっと見てましたなんて言えるような勇気は持ち合わせていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る