第4話
決め手は部活後の帰り道に送られてきたメッセージだった。
美月は誰に対しても誠実で優しく、バイオリンパートのメンバー全員と初日のうちに連絡先を交換していた。
「今日蓮君のおかげでちょっと筋トレしてみようかなって思えたの! これから頑張るね、だから私の姿勢見ててくれると嬉しいな」
自分の、おかげで、頑張ろうとしてくれる人がいる。そう思うと蓮の自尊心がぐっと上がった。そして美月への好意も高まった。
いつも誰にでも優しい。自分のことを見ていてくれて自分のおかげで頑張れるとさえ言ってくれる。そして自分のことを見ていてくれと言ってくれる。
蓮は人生で初めて家族以外に自分のことを見ていてくれる人と、そして自分のことを肯定してくれる人と出会った。
そしてそれが恋心であると気づいた。
自分にも高校生の頃彼女はいたことがある。でもその相手は自分のことを見てくれてなんていなかった。見てくれがいい蓮のことをアクセサリーとして身につけているだけだった。確かにそれなりに長く付き合った。二年ほどだろうか。それでも誕生日や記念日に高いプレゼントをしなくなるとそれに気づいた彼女の心はすぐにどこかに行った。
美月はあの子とは違う。自分の内面を見てくれる子だ。自分の存在を肯定してくれる子だ。自分の見てくれがいいから寄ってきて話しかけたんじゃない、練習中に自分の姿勢がいいことを見ていてくれてそれで自分がより上達できるように自分のことを頼ってくれたんだ。
蓮は昔の彼女のことがその瞬間に好きになれなくなった。普通に付き合っていると思っていた。仲がよかったとも思うし休日にデートに出かけることもあった。でも彼女は自分のことなどどうでもいい都合のいい彼氏としてしか見ていなかった。自分が都合のいい存在でなくなった瞬間に自分の事を捨てた。
そう思うと美月への想いは大きくなっていった。
あの子は、元カノなんかとは違う。あの子こそが僕が追いかけていきたい人だ。
そのまま恋心は日に日に大きくなっていった。
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