第3話

それからも練習は続いた。


自衛隊では弱音を吐かないやつが諦めてしまうことが多いらしい。逆に弱音を言いたいときに言い合える人がいれば辞めにくくなるらしい、なんてどこかで聞いた気がする。


美月は真っ先に弱音を吐いた。そしてその発言に安心して弦楽器のパートの全員が気楽に弱音を吐きながらも練習できるようになっていた。


美月は誰にでも優しかった。


「ねえ佳奈美ちゃん、先週よりもすごい音よくなってる気がする! 先週はなんかもっと音がギイギイいってたけど今はなんかバイオリンの音って感じ!」


「ほんと?! 自分じゃ分からないからそういうの言ってくれるとすごい嬉しい、ありがとう」


「いえいえ、一緒に先輩みたいに上手になろうね」



そしてその優しさは蓮にも回ってきた。


「ねね、蓮君すごい姿勢が綺麗になってるんだけどどうしたら私もそうできる? ……ああ、なるほどもうちょっと肩甲骨が後ろにいくように意識したらいいのか、そうなると背中の筋力が足りてないのかな、今日から筋トレしてみよう。蓮君は結構筋肉ちゃんとあるもんね、基礎練習も最後まで姿勢キープしててすごいなって思ってたの。今度前よりもできるようになってたらまた見てもらいに来てもいい?」


「もちろんいいよ、先輩優しいけど指導はちょっと怖いもんね。僕のところなんかでよかったらいつでも聞いて」


「ありがとう! すごい心強いよ」


頼られるなんて初めてだった。元々勉強も教えてもらうことの方が多かったし、中高と部活をしていなかった蓮は誰かに頼ることは多々あれど頼られることは殆どなかった。そしてそれが、初めて人に頼ってもらえたという事実が蓮に自信を付けさせた。明るく誰に対しても優しく、そしてこんな自分にも頼ってくれる。


そんな美月に蓮は段々と惹かれていった。

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