true end

出逢い

第2話

木村蓮が長谷川美月に出会ったのは大学一年生の五月のことだった。


部活の交響楽団で出会ったのが初めてだった。


同じパートであるところのバイオリンを任され、先輩に指導されていく。


これまでに楽器の経験など全くなく、入学式の時の演奏で交響楽団のレベルの高さに驚いて憧れを抱き入った部活だった。


「その角度だと隣の弦からも音が鳴っちゃうからもう少し斜めに、……そう、この音を鳴らすときはその角度で。でそうすると今度は姿勢が悪くなっちゃってるからまずはそこにある鏡見て正しい姿勢で音が鳴らせるようにするところからだね」


バイオリンは最初音をまともに鳴らすことさえ難しかった。自分でも聞くに耐えないと思うようなキーキーとした雑音が耳のすぐ近くで鳴ってくる。


対して先輩はといえば自分の知っている”バイオリンの音”そのもので、来年になる頃には自分もああなれるんだろうか、そんなことができるようにはどうも思えない。


やっぱりこの部活、自分には向いていないんじゃないだろうか。


そんなときに声をあげたのが美月だった。


「これ難しいね、ちょっと待ってこの角度であってる? これだと斜めすぎ? ていうかこれすごい腕がきつい、でも本当は腕じゃなくて顎だけでちゃんと楽器支えられるようにならないといけないんだよね。……あんな先輩みたいな音鳴らせるようになる気しないんだけどどうしよう、私達の代で演奏のクオリティーすごい下がったら」


一年生全員が姿勢の保持に四苦八苦している中で彼女の発言はバイオリンとヴィオラの一年生全員の共感を得た。


「そうだよね、私も楽器持たせてもらった初日から挫折しそう」


「でも練習してたらあんな綺麗な音鳴らせるようになるのかな」


「そうならいいよね、鳴らせるようになりたいし入学式の時の『威風堂々』すごいかっこよかった。あれできるようになりたいよね」


「確かに! 美月ちゃん、で合ってるよね、今挫折しそうだったけど入部したときの気持ち思い出せた。頑張れそう」


「美月であってるよ、自分で言うのも恥ずかしいけど美しい月で美月。これから一緒に頑張ろうねー……あー肩こった」


そんな会話に連自身も救われた。僕もあの人達みたいに、先輩みたいにできるようになる日が来るかもしれない。


全員が弱音を吐かずに心の中で諦めかけていたことを美月の一言がひっくり返した。


それが彼女との最初だった。

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