第2話
何度も揺られて地獄のような責め苦を食らって大体三時間。漸く指定された場所に着いたのか、トラックのスピードが落ちてゆっくりと停車した。
「慶治、生きてるか〜?」
「ケツは死に掛けてま〜す」
「なら全然大丈夫だな。そんじゃ、ザックリ共有しとくぞ」
今回相手にするのは『狂骨』と呼ばれる妖魔で、危険度としては最低ランクであるEクラスの妖魔になる。
骸骨の亡霊といった妖魔で、特に井戸の周辺や井戸があった所に湧きやすいらしい。
「俺も何度かやりあったがな。連中、骨だから剣とか槍とか使うより棒でぶっ叩いた方が早いのよ」
「へぇ、そうなんスね」
「荷台に鉄パイプ積んであるだろ? ソイツでぶん殴ってやりゃぁ一発だからな。あ、丁度いいしそのパイプ下に下ろしといてくれ」
「りょーかいッス!」
解体道具と合わせて持ってきていたパイプは何に使うのかと思っていたが、どうやら戦闘用の武器だったらしい。
妖魔によってはチェーンソーだと相性が悪いこともあるので、毎回トラックには打撃用の金属パイプを用意しているそうだ。
「んじゃ、外に出しとくんで持ってってください」
「おう! あぁ、それとだ。今回の狂骨はそこそこ数が多いらしくてな。場所としてはひ――――」
ガラガラガラガラガシャッ!!!!
「うぉ!?」
「ヤッベ!? すんません! 解体道具に引っ掛けました!」
荷台の床に置いてあったパイプを外に出したら端っこが当たったみたいで、解体道具とそれが入った工具箱が崩れ落ちてしまった。
「オイオイ、壊すんじゃねぇぞ〜?」
「ホントすんません! すぐに戻します!」
「おぅ。それじゃ、慶治はそれ戻してからこっち来てくれ。俺等は先に現場に向かってっからよ」
そう言って運転席と助手席の扉が開く音が聞こえ、先輩が置いてあったパイプを持っていく姿が見えた。
「っと、そうだった! 狂骨の中にゃぁ武器持ってる奴が混じってたりすっから、そこだけは気を付けとけよ!」
「りょーかいッス!」
俺はまだ狂骨というのがどういう妖魔か分からないが、取り敢えず『骸骨』で『武器持ってる奴ら』がいるって事だけ分かればいいだろう。
二人に遅れないためにも、さっさと片付けて追いつかないとな。
「――――よし! んじゃ、とっとと走って追い掛けねぇとな!」
散乱した道具を箱にしまい、チェーンソーなどの大型の解体道具を綺麗に並べ直した俺は、床に置いてあったパイプを担ぎ上げた後、トラックから降りて『左』側の通りに向かって駆け出した。
班長と先輩の後を追って通りを走り回っていたが、見つかったのは二人の姿ではなくキレイな白骨死体。それも片手に鋭く研がれた骨製らしき刀を持っている骸骨だ。
「あちゃぁ……二人じゃなくて当たりの方を引いちまったか」
カタカタと顎を打ち鳴らしている白骨死体は、軽く見積もっても既に十人以上はいるだろうか。
皆、その手には凶器として充分な刀を持っていて、話に聞いていた通りの集団でフラフラと彷徨いていた。
一瞬、あの剣に鉄パイプで対抗出来るのかという不安が出てきたが、最初からビビってたら死ぬだけだろうと、大きく息を吸って吐いてから覚悟を決める。
鉄パイプが壊れたら、最悪この拳で骨共の顔面を叩き潰してやればいい。打撃に弱いというのなら、殴ったり蹴ったりしても倒せる筈だ。
相手には幸いにして気付かれていない。それを最大限活かし、スッと建物の陰から出来る限り近付くと、鉄パイプに力を入れて飛び出し、接近しながらそれを縦に振り下ろした。
避ける間もなく一撃で頭を砕かれ、背骨の半ばまで砕かれる骸骨。肋骨が両断される形で横に割れ、地面に落ちて粉々に割れた。
これにより、一斉にこちらを見る大量の骸骨共。ただ、即座に次の骸骨に近付いて横にパイプを薙ぎ払ったことで、二人の骸骨も肋のあたりから上下に真っ二つにしてみせる。
「――ハッ! 骸骨共も驚きはするんだな!」
瞬時に三人の骸骨が砕け散り、動揺したのか他の骸骨は刀を構えつつも少し足が引けている。
だが、すぐに気を取り直したのか俺を囲む骸骨共は刀を上段に構えながら突っ込んできて、それを思いっきり振り下ろそうとした。
「んなもん、食らってやるかよ!」
それを軽く後ろに下がって避けると、隙だらけの骸骨共を横薙ぎに力一杯振り切って、刀諸共木っ端微塵に打ち砕いてみせる。
倒したのは五人。その後からは更に素早い動きで追加の骸骨共が走ってくるが、崩れ落ちる骸骨の頭をもぎ取ると、それを先頭に向かって全力で投げ付ける。
避ける間もなく直撃した骸骨の一人が、ぶつかった頭蓋骨諸共頭部を木っ端微塵に弾けさせる。横にいた骸骨も飛び散った骨片を食らって少しヒビが入っていた。
ただ、それで止まる骸骨でも無いようで、僅かにヒビの入った腕で骨の刀を構え、或いは突き出してこちらを殺そうと襲い掛かってくる。
「班長の言う通りっちゃ言う通りだが、ここまで殺意が高いとは思わなかったなぁ!」
殺る気満々の骸骨を殺られるより先に殺れの精神で殴り倒す。パイプは存外頑丈で、俺の馬鹿力にも結構耐えてくれていた。
ただ、うっかり電柱やら何やらに当てたら一発で折れ曲がるのは容易に想像がつく。路駐している車が無いのは有り難い限りだ。
広い通りのど真ん中で鉄パイプを両手で持ち、斬りかかろうとする骸骨共を片っ端から横薙ぎの一発で粉砕していく。
そうして戦っていれば、必然的に目の前の骸骨共の違和感というものにも気付くものだ。
「……なんか、倒せはするが何も残さねぇな」
武器諸共木っ端微塵にした骸骨だが、その死体の残骸が一欠片も残すことなく消えているのだ。
アレだけ激しく飛び散った割には僅かな骨の欠片も大きな骨も、まるで最初から何も無かったかのように風に吹かれた塵のように消えていく。
その癖、ワラワラと湧き出てくる骸骨共の数は一向に減る様子を見せず、寧ろその数がどんどん増えているように思えた。
流石にこれは異常だと、骨を砕く腕は止めずによく目を凝らして骸骨共を見る。恐らく、何かしらのタネか仕掛けがある筈だ。
そうして目を凝らして見ていると、大勢の骸骨が居並び迫る中で一番最奥に一人、他とは違う骨の杖を持った骸骨がいることに気付く。
――――見つけたぞ、テメェが『本体』か。
仕掛けが分かれば何も怖くは無い。恐れすら逆に捻じ伏せて逃げさせ、獰猛な笑みを浮かべて最奥の骨を両の目で捉える。
スッと、かなり自然な動きで己の足が一歩を踏み出す。偽物の骸骨共が俺の動きを見て僅かに逡巡したような姿を見せたが、そんな事は気にすることなくパイプを振り回して薙ぎ払った。
「さぁ、解体ショーの始まりだ。まずは、テメェの周りにいるこの木っ端共を粉々にして、それからその面ぶっ潰してやるよ」
落ちていた拳大の石を靴のつま先で蹴り上げ、素早くそれを左手で掴み取る。そして、そのまま目にも止まらぬ速さで投げ放つと、弾丸のように飛んでいった石が刀を持った骸骨の頭を吹き飛ばす。
それどころか、そのまま後ろにいた五人程の骸骨も同じように頭を吹き飛ばして、最後は耐え切れず木っ端微塵になった石片が散弾となって一人の骸骨の全身を粉々にしてみせた。
斬り掛かる骸骨は右片手で持ったパイプの横振りや縦振りで刀諸共木っ端微塵にされ、僅かばかりの足止めすら出来ずに消えていく。
――――そうして、骸骨達にとって最凶最悪の暴力装置が、まるで獣のような鋭い眼光で本体目掛けて走り出し始めていた。
「慶治の奴、おっせぇな」
「多分、道具箱もひっくり返してますからね。片付けんのに時間掛かるでしょ」
一方その頃、現場でパイプを振り下ろして狂骨を倒す班長と先輩。彼らは車を降りて右の『東』側で、フラフラと彷徨う狂骨達を倒していた。
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