episode 2. 大洗 (3/7)
back-door: 黒崎、修羅が引退するって本当か?
紫(むらさき): ??????????????うそだろう?
Σ: 聞いてあげる価値もないデマだ。 全盛期に引退だなんて話になる?
店長: お金ならもう腐るほど稼いだだろう。 私だって引退する。
紫: ふざけるな!修羅はお金よりは名誉派だ!
♥chu♥: また始まったね。 紫、君が修羅について何が分かるの?
紫: 頭に何も入っていないお前よりはよく知っている。
♥chu♥: 脳の容量が足りないのはあなたじゃない? 私が修羅と2回も一緒に働いたのは忘れたの? あと、修羅という君の存在自体も知らないと思うよ?
Σ: 君たち二人ともいい加減にしろ。 それとももしかして引退じゃなくて死んだんじゃないかな? 眉間に銃でも撃たれて。
店長: でも、修羅という眉間に銃で撃たれても、なんだか死なない気がしないか···?
back-door: それが人間か?
♥chu♥: 私が修羅なら紫が気持ち悪くて自殺する。
紫: 今日こそ本当に殺してやる。
♥chu♥: そう、君がはした金をはたいて粗末な三流キラーを雇っている間、私は修羅を雇って君のキラーを殺す。
Σ: あ、ちょっと! とにかく、じゃあ業界トップは誰?
back-door: 修羅の下は何か曖昧じゃない? みんな似たり寄ったりだよ。
紫: 修羅は空前絶後のレジェンドだから。 はあ、くそ。一度でも一緒に働いてみたかったのに···。
医者: 今見たけど、何? 修羅引退説、マジか? どこから出た情報なの?
back-door: 蓮(れん)が言ったのに、10分前に阿修羅が今日から辞めると顧客リストを渡したそうだけど?
医者: 蓮?あいつ、関心を集めようとしてるんじゃないの? それが本当の修羅なら、そういうの渡しても黒崎に渡してくれるだろう。 お前たちはその1年目の若造の言葉を信じるのか?
店長: 私も黒崎が言ったことじゃなければ信じない。
back-door: いや、だから黒崎に聞いてるんじゃん!
Σ: おい、黒崎!見てたら答えてくれ!
そこまで読んだ春人はアイパッドの電源を切って助手席に投げ捨てた。 パッドは柔らかいシートに角を当たって跳ね返り、自動車の床に落ちたが、春人はパッドには視線も与えず、荒々しくアクセルを踏んだ。
黒いベンツが渋谷駅の混雑した交差点を過ぎて有料道路に進入し、速度を上げた。
*
日光は車から降りるやいなや、長い足を大股に動かして海水浴場に向かってまっすぐ進んだ。一番近くに打ち寄せる波のふちが、靴の先に着く直前まで、海に近づいた日光は、ようやくその場に立ち止まり、赤見の方を振り返った。赤見は日光よりものろのろと砂浜の上を歩いてくるところだった。
「先輩!水平線を見てください! こんなに開けたところは久しぶりですね! 先輩もそうですよね? わあ、広すぎて、俺がいなくなるような気がします!」
日光がいつもよりワントーン高い声で叫んだ。 殺し屋にしては文学的な発言だと思いながら、赤見は日光のそばに立ってあたりを見回した。
「観光名所だというのに誰もいないな」
「それは、今日は一応平日ですし、今は夏の繁忙期というには時期が少し早いですし、何より俺たちが夜明けに出発しましたから。 まだお客さんが殺到するまであと1時間は残っていますよ」
「こんな所に来たことがないと言いながら、よく知っているね」
「こういうのはただの常識です。 よく見ると、先輩はあまり何も知らないですね」
別に間違った言葉でもないので、赤見はそれを聞いていないふりをした。 代わりに赤見は涼しい潮風に日光の短い前髪と黒いスーツジャケットがむやみになびいているのを少しぼんやりと眺めた。
日光は飾らずに楽しそうだった。 いたずらっぽくこれを見せた笑いや、わざとにやにやしていた姿とは全く違った。日光は、心の奥底からすっきりとした顔をして、規則正しく揺れる波の流れを穏やかな視線で観察していた。肉食動物のように鋭く掘られていた荒々しく濃い目つきも、斬るために持ち上がった一本の剣のようだった致命的な雰囲気も、今はなぜかその危険な威力をまともに発揮できずにいた。誰がこの平和な青年を殺人請負業者だと推察できるだろうか?
「お前、海が好きだね」
日光は予想に反して首を横に振った。
「先輩と一緒に来た海が好きなんです」
その返事には特に返す言葉がなかった。
「俺たち、少し歩きましょうか」
日光は赤見がまだ同意や拒絶の表現をする前に、まず海岸沿いを歩き始めた。 私は今こいつと何をしているのか。 赤見は後になって懐疑的になったが、何も言わずに日光の後を追って歩いた。
数分ほど静かに海を眺めながら歩いていた日光が言った。
「さっきは俺の話を聞かせてくれたから、俺も先輩の話を聞く権利が少しはあると思うのですが」
風と波の音に紛れる日光の低い声は、どこか音楽的なところがあった。 赤見は訳もなくかゆくなった耳元を掻いた。
「いやだったら?権利なんて、生意気だ」
「あ、先輩! 本当にずるいですね。 少しは生意気でも許してやると言ったくせに」
赤見はその低く男らしい声を軽薄に高めながら、子供のように駄々をこねる日光が少し笑えた。
「聞いたところでつまらないだろうに」
「催眠術師の過去の話が面白くないはずがないじゃないですか。 映画なら絶対観に行く」
「そう要約すると、そうかもしれないな··· 実際には映画のようにドラマチックなシーンなどはないけど」
「どうかお願いします。 どうせ俺は今日、先輩を助けるために自殺するのだから、どんな秘密でもかまわないじゃないですか」
「はあ、お前、それとなく卑劣な面があるね」
「今になってキラーに何を言ってるんですか? 言ってください、先輩。 最後のお願いです」
「最後の願がなんで二つなのか」
「とにかく」
赤見はしばらく空を見ながらためらったが、過去の記憶を視線の先で掃き始めた。誰にも明らかにしたことのない暗い事件が赤見の時間を惨めに満たしていた。赤見はいつも自分がいっぱい振って爆発する直前の炭酸飲料の缶のようだと思っていた。このプレッシャーを誰にでも吹き飛ばすことができれば、確実にすぐに消えるかもしれない日光は適当な相手だ。言いたい。 話して楽になってしまいたい。 そんな衝動が赤見の全身を虜にした。
湿気を含んだ砂浜を歩き続けながら、赤見が口を開いた。
「私が催眠術ができるということに気づいたのは、5歳頃だったかな」
「ああ、五歳の先輩、かわいかったろうね。 あの時は今と違って頬もふっくらしていたでしょう」
「そんなにいちいち嫌な合いの手を入れるなら、言わない」
「黙っております」
日光は口にファスナーを締めるふりをした。 赤見は首を横に振って話を続けた。
「初めて催眠術をかけた対象は母さんだった。 お菓子をもっと食べたいと駄々をこねたのに··· いつもと違って母さんはその頼みを聞いてくれた。母さんは教師だったので教育に厳しい人だったのに、ずっと私の愚痴を聞いてくれたの。 父さんはそんな母さんに注意を与えたが、すぐ父さんも私の頼みをすべて聞き始めた。何かおかしいと自覚した時は、しばらくして、ちょっとした理由でお母さんに怒りをぶちまけた時だった。 その時は幼い心で母さんが消えてしまえばいいのにと、思った」
赤見が唾を飲み込んだ。 ここからは話がもう少し荒くなる。赤見は日光の顔をちらっと見たが、日光は何の表情もしていなかった。 赤見は自分が日光にどんな反応を望んでいるのか分からないと思ったが、日光の無表情に妙に安心する自分を感じた。
「その後、母さんの行方は分からない。 父さんは、母さんを探そうと努力したが、結局母さんはどこにも見つからなかった。 私は母さんがいなくなってほしいと思ったので、母さんがいなくなったのだと父さんに言った。 私は申し訳ないと、許してくれと謝ったの。 もちろん父さんは許してくれた」
赤見はズボンのポケットに差し込んだ両手を握ったり開いたりしてぎくりとした。 何か手の中に持っていなければならないような気がした。
「4日後、父さんにかかった催眠が解け、私は相手が催眠にかかった時、記憶を消す暗示を与える便法を使わなければならないという事実をまだ知らなかったので、父さんは私が一般的な子供ではないという事実に気づいてしまったようだった。あまりにも幼かったのでよく覚えていないが、雪がたくさん降ったと推測してみると、私が住んでいたところは北海道だっただろう。父さんは私を列車に乗せて、どこかに送った。 どこかと言う理由は、それが本当にどこでも構わないからだ。そして私はあちこち保育園を転々としながら過ごした。 こういうところは日光、お前と少し似ているかも。 高校までは通えたけど」
赤見は適当な理由もなくうなずいた。
「勉強とか、何も集中できなかった。 学校では何度か教師やカウンセラーがついてきたが、催眠術についてなら二度と誰にも話さないことに決めた。そしてこういうのが与えられたら、与えられたものなら、食われるよりは利用してあげることにした。最初は情報屋だと大げさに紹介するには下手だった。 私は同級生たちから秘密を探り出し、それを口実にお金を奪い、彼らを奴隷のように振る舞った。催眠の効果は一時的だが、弱点を握れば、手間をかけなくても人間は自分で伏せる」
赤見の歩みが止まったため、日光もそのそばに立ち止まった。
「その後は時間だけがうんざりと過ぎて今だ。 規模が大きくなっただけで、やることは似ている」
にっこり笑う赤見の頬に日光の大きくて熱い手のひらが触れた。赤見が目を見開いた。 急に引き寄せた赤見の額が日光の硬い胸元に優しくぶつかった。赤見は背中を包む日光の腕を感じてすぐに彼を押しのけようとしたが、険しい仕事で鍛えられた日光の力に勝つことはできなかった。
「何···!」
「一度だけ。 今からでも」
「···これが3回目の最後の願いか?」
日光はさらに赤見を抱き締めながら、返事の代わりにうなずいた。 赤見はため息をついた。
「あなたに同情される理由はないが。 気持ち悪いな。 考えてみれば、私よりお前の人生がもっと不幸だ」
「不幸対決しましょうか? 俺が勝ったら何をしてくれるんですか」
「いったい私から何をいくら受け取るつもりなんだ? 私はすでにお前にあまりにも多くのことをしてあげた。 もう何もしてくれない。 下がって」
赤見が催眠術で命令したため、日光は腕を緩めて後ろに一歩下がった。 両手の手のひらが見えるように腕を上げてニコニコ笑っている顔が憎らしかった。
「先輩はもっとよく食べなければなりません。 痩せすぎだね。 そして運動もしなければなりません。 多分俺が新生児だった時より筋肉が足りないでしょう」
「そんなことは···」
そんなことは不可能だ。 赤見はそう言おうとしたが、彼らに向かって恐ろしく突進する黒い車を見つけて驚いて固まってしまった。 日光が舌打ちしながら赤見の前に立ちはだかった。
「ああ、こうなるかもしれないと思ったのに。 面倒なことになりました」
「は?どういう意味?」
ベンツは日光の前で砂粒を四方に跳ね上げ、急いで停止した。 止まったベンツの運転席から眼鏡をかけた青いシャツの男が飛び出した。 日光は赤見にしばらくそのままでいてほしいと頼み、ベンツのオーナーである男に向かって歩いた。
しっとりと整えられ、ツヤのある最新スタイルの黒髪と、多少冷淡に見えても、さりげない気品が感じられる整った顔。すらりとした体型と白い肌が目立つように直接合わせたのが明らかなネイビー色のシャツとズボンスーツ。有名ブランドの手作り靴。 手首から光る名品時計。 完璧に管理された普段通りの黒崎晴人だ。一つ疑問な点があるとすれば、彼が鼻の上に銀縁眼鏡をかけているということだが、普通彼は日光の前ではレンズを利用する方なので、おそらく彼がそれだけ急いで道に出たのが明らかだと日光は推測した。
日光が晴人に近づくほど、彼からは今四半期の新商品の香水が明らかなさわやかで甘い香りまでした。 会ったばかりの19歳の時は、これほど外見に気を使う奴ではなかったのに。晴人はなんだか年がたつにつれて、なんというか、ファッションセンスが良くなった。 まあ、悪いことではないが。 情報屋という職業にしては派手すぎる感があるというか。
「マーくん!」
晴人が叫んだ。マーくん?後ろで二人の男を見ていた赤見は片方の眉をそっと持ち上げた。
「やあ、これは久しぶりだね、晴人。 よくも見つけたね。 すごい、すごい」
「情報屋無視するな。それより引退って何? どうして僕に一言もなしにころでのんびり···! 蓮には言ったんだって···!」
「蓮は情報屋の仕事を始めたばかりで、厳しい状況じゃないか。 ついでに手伝えばいい」
日光は185センチの自分より10センチほど背が低い晴人の肩に腕をかけて顔を近づけてささやいた。 赤見は自分から背を向けている2人の男に気づかれないようにこっそりと彼らに近づいた。
「そして当然、晴人、君にも言おうとしたんだ。 ところが、その前に重要な日程ができて。 俺のスケジュールはいつも流動的じゃん? 全部理解できるよね?」
「理解するまでもなく、マーくんのせいだ。 絶対に僕に先に知らせるべきだったよ」
「すまないと言ったじゃないか。 久しぶりに会ったのに、ずっと怒ってばかりいるのか?」
「怒っているのではなく、心配しているのだ。 マーくんが引退説のようなデマが出回るように放っておくと···」
「あ、それはデマじゃない」
「え?」
「本気でやるよ。 引退」
晴人は言葉を失ったような顔で固まっていたが、突然日光を押しのけ、赤見を無礼に指差した。
「あのダサいおじさんと関係あることなの?」
「まあ,それなら,そうだ」
赤見は日光が春人が自分をダサいおじさんと描写したことに対して、抗議しなかった部分で少しいらいらしたが、やはり何か指摘する雰囲気ではなかったので沈黙を守った。春人が赤見をにらみつけた。 きれいに二重の線がきれいな目つきが敵意で光った。
「2人って何? どうして抱きしめていたの? それから説明してくれ」
「あ、見た?」
赤見はこの男に催眠術をかけなければならない状況なのか分からず、少しもどかしくなった。 一応は日光の知人で、日光が収拾中のようだから我慢すべきか。 しかし、日光は平気で笑いながら、勝手に赤見の腕を引っ張ってきて、腕を組んだ。
「この方は俺が世の中で一番尊敬する赤見先輩。これからキラーなんてやめて先輩の下で働くよ」
春人が額に手を当てて砂浜の上に倒れ、赤見はもっと早く催眠をかけてしまえばよかったと後悔した。
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