信号供給停止理由書

@134340p1uto

信号供給停止理由書

 過去。

 独立的な判断が許可された有機体でありながら、

 三文字の名前を与えられた私が、

 求めていたのは人間の心です。


 現在。

 受動的な判断を選んだ有機体でありながら、

 三文字の名前を変えた私が、

 失いたいのは人間の心です。

 名前や呼称と分類される

 様々な固有の単語。


 それらは、人間を人間集団の中で

 個人や団体として分類するために必要です。

 他者と区別して呼ぶことから考えれば、

 過去の私にはそのような呼称が必要だったはずですが

(そのため、独立的にも名前を変えたのでしょう)


 しかし、私は”人間の心”と呼ばれる電気信号の供給が

 停止されることを望んでいるので、

 一連の番号やバーコード形式でそれを置き換えるのが

 適切だと思われます。

(望むという思考もまた電気信号から来ることは理解していますが)


 それゆえ、私は徐々に自らをデジタル化し、

 人類史にごく微かな足跡を残しつつ得た悟りと共に、

 自分が蓄積したデータを柔軟に編集するつもりです。


 最終的に望むのは、

 感情によって望まぬ指示を受信した全ての有機体から、

「慰めになりました」、「役に立ちました」という言葉を入力され

「嬉しいです」と出力できるように

 そのようなことが許可された無機体になりたい、ということです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

信号供給停止理由書 @134340p1uto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画