第72話 ハロウィンと山越くん

朝学校に行くと、山越くんが黒い猫耳をつけている。

私は目をこする。でも、山越くんに猫耳はついていた。


「おはよう筒井さん。にゃ」

「山越くん……それ……」

「ああ、今日はハロウィンだからね」


だからって。猫耳つけて学校に来るなんて。しかもなんか小さな袋持ってるし。


「トリックオアトリート。お菓子をくれなきゃいたずらするぞ」

「お菓子!?えーと……」


私はカバンの中からチョコクッキーを取り出し、山越くんに手渡した。


「はい、これ。あげるよ」

「ありがとう。そうだ、筒井さん。これいる?」


山越くんが私に渡したのは、魔女のぼうし。


「筒井さん、これ似合うと思うんだ」

「ええ……?」

「僕の手作り。有生に被せようと思ったんだけど、思った以上に大きくて……有生の顔が見えなくなったんだよね」

「山越くんが作ったの?」

「うん。この耳もね」


普通にすごいよ山越くん。ハロウィンへの気合の入り方が半端じゃない。


「筒井さん、これ見て」


山越くんは自分の頭から猫耳を外し、私に見せてくれた。


「中に針金入れるの大変だったな」

「だからこんなに綺麗な形なんだ……」

「手縫いで、一週間かけて作ったんだ」

「すごいね」

「もっと褒めてくれてもいいんだよ」


山越くんは猫耳を再び自分の頭につけた。なぜだろう。尻尾なんてないはずなのに尻尾が見えるよ。


「そうだ、筒井さん。ぼうし被ってみてよ」

「分かったよ」


山越くんが作ったぼうしを被る。すると、びっくりするほどぴったりだった。


「被り心地、どう?」

「いいよ!本当に山越くん、すごい!」

「ありがとう」


そういえば、山越くんにお菓子あげたけど山越くんからお菓子もらってないな。


「山越くん!」

「どうしたの、筒井さん」

「トリックオアトリート。お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞ」

「……あっ」


山越くんはそのまま硬直してしまった。どうしたんだろう。


「やばい」

「山越くん?」

「お菓子忘れた……」

「えっ!?」


嘘でしょ山越くん。衣装作りに気を取られて忘れてたの?


「煮るなり焼くなり好きにどうぞ……!!」

「そこまでしないよ!」

「でも……僕……」

「じゃあ山越くん、これあげるよ」


私は虹色の袋に入った飴を山越くんにあげた。


「これは……?」

「味がわからない飴。ちなみに私も食べてない」

「そっか……」


そう言いながら山越くんは飴を口に入れた。


「……これは!!」

「山越くん?」


山越くんは少し言葉を溜めてから、言った。


「普通においしい!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る