第70話 手紙にしたためた思い

山越くんが昼休み、紙に一生懸命何かを書いていた。

私は話しかけないようにしようと思って、静かに椅子を引いて席についた。


途端、山越くんが鉛筆を置いて伸びをした。


「よっし、終わった」

「山越くん、何書いてたの?」

「ああ、これ?」


山越くんは紙を折りたたみ、笑った。


「未来の僕へ手紙を書いてるんだ」

「へえ、何年後?」

「いや、明日」

「明日?」


山越くんは机の中からさっきの紙と同じような紙を取り出し、言った。


「これが昨日の僕から受け取った手紙」


私は山越くんからその手紙を受け取ると、中を見た。


『明日の僕へ


昨日はぐっすり眠れましたか。陸上部の練習で身体を痛めたりしていませんか。もし痛いなら、今日はゆっくり部活を休んでください。3年間陸上部で居続けることが、僕のこの高校生活の目標なのですから。どうか明日……明日の僕にとっては今日か。1日を、元気に過ごしてください。


昨日の僕より』


「昨日は陸上部の練習メニューがいつもよりきつかったんだ。だから、身体がついていけてるか心配なんだね」

「なるほど……」

「毎日文は違うよ。ちなみにこれ、金曜日は月曜日の僕へ手紙を書いてるんだ」

「そうなんだ……」

「毎日これを楽しみに僕は学校に来てるんだ。筒井さんもやる?」


と言われましても。何書いたらいいかわかんないよ……。


「……気が向いたらね!」

「筒井さんもきっとハマると思うよ」


山越くんは明日の山越くんへの手紙を、丁寧に机の中に入れた。

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