第20話 美術の課題

昼休み、私は購買に行こうと廊下を1人で歩いていた。


「こんなのじゃだめだ!!」


聞き覚えのある叫び声が聞こえて、私は声のするほうに向かった。


美術室を覗くと、そこには山越くんがいた。必死に机に向かい、絵を描いていたのだ。


「失礼します」


私は美術室に入り、山越くんに声をかけた。


「何の絵を描いてるの?」

「美術の課題で、鉛筆で好きなものを描いてるんだ」

「ああ……」


入学して一番最初に出た課題だ。なんで山越くんは終わらせてないのかは知らないけど、とにかく山越くんがそれに追われているということは分かった。


「だけど上手く描けなくて……」


山越くんが頭を抱え、ため息をついた。


「さっき描けてたのにね」


部屋に入ってきたのは美術の先生。

描けてたのにって、どういうことなんだろう?


「あんなの、僕が好きな焼きそばパンじゃない!」

「化学の教科書も描いたのに破っちゃって。そんなことばっかりしてるから課題が終わらないんだよ」


山越くん……。こだわりが強いのはいいけど、学期末に呼び出されるくらい悩むなんて。

私なんてお気に入りのコップで済ませたのに。


「もう家で描いちゃだめですか?」

「それで仕上げてこなかったから残らされてるの分かってる?」

「終わらなかったらどうなりますか?」

「放課後もやってもらう」


山越くんが再びため息をついた。


「もう友達でもいいよ?」

「森浦は今日休みです」


そうなんだ。森浦くんを囲む女子の悲鳴が今日は聞こえないと思ったら。


「筒井さんを描くのは?2人友達でしょ?」


私達は顔を見合わせた。友達って言えるのかな、私達は。先生の目には、そんなに仲良く見えるのだろうか。


「筒井さん……いい?」

「う、うん。上手に描いてね」

「分かった」


山越くんは私を描いて、課題を完成させた。


「見て、筒井さん」

「すごい……!」


ほんとうによく描けた私の肖像を見て、思わず声を上げてしまった。


「ありがとう。これで課題ができたよ」

「よかったね」


山越くんの課題を見た先生が言った。


「いいね。山越くんは筒井さんのことよっぽど好きなんだねぇ」

「え!?」


山越くんが焦ったような声を出す。多分深い意味はないと思うけど。


「筒井さんもいい笑顔だよ」

「そうですか……?」


そう言われるとそうかもしれない。なんだか照れくさくなって、私達は顔を合わせられなくなった。

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