第18話 最高の焼きそばパン
「治った!」
山越くんは私に右手首を見せて言う。
「よかった!」
「今日から練習もできるんだ。嬉しいね」
山越くんは笑顔で言った。そしてカバンの中から、大きな重箱を取り出した。
なんと中から出てきたのは……。
「……焼きそばパン!?」
「作ってきたんだ。筒井さんも食べる?ちょうど3つあるんだよね」
「……いいの?」
「前に約束したでしょ。僕が特製の焼きそばパンを作ってあげると」
「そっか、そうだっけ」
……言ったっけ?うーん。あ、言った言った!
「もう一つは森浦に。袋も用意してきた」
チャック付きのポリ袋に焼きそばパンを一つ入れ、そこに一つの焼きそばパンを入れた。
「森浦もきっと喜ぶに違いない」
「森浦くんも焼きそばパン好きなの?」
「そうだよ。僕が中学の時に焼きそばパン焼きそばパンって耳元で連呼したから」
それもう洗脳では。山越くん怖いよ。
そして昼休みを迎え、私たち仲良し4人組は萌華の席に集まり昼食を摂っていた。
「うん、おいしい」
「美麻それどこの焼きそばパン?」
「山越くんがくれた焼きそばパン」
「まさか手作りですか」
「そうみたい」
なんだかざわつく3人。言いたいことは分かる。まさか本気で作ってくると思わなかったんだから。
「……筒井さん!」
山越くんが大声で私を呼ぶ。いや、山越くんはそもそも声があんまり大きくないんだけど。
「大変だ。……もう、それ食べた?」
「うん……」
私がそう言うと山越くんはがっくりと肩を落とし、ため息をついた。
「どうしたの?」
「おいしくないんだ、それ。僕の理想の焼きそばパンとは違っていたんだ」
「おいしいけど……」
食べたことのない、ソースの口当たりの良さ。麺もちょうどいい細さと固さで、市販のものよりかなりおいしいんだけど。
「
「……どういうこと?」
「これは、焼きそばとパンだ」
「そうだね?」
私がそう言うと、山越くんは苦い顔で首を横に振る。
「僕は浅はかだったんだ。最高の焼きそばと最高のコッペパンを合わせれば勝手に最高の焼きそばパンができると思っていた。でも真に必要だったのは、焼きそばとコッペパンのバランスだ」
山越くんの言葉をなぜか3人も聞き入っていた。え、何。何この空気。
「僕が選んだコッペパン。これは小麦の香りが強すぎる。焼きそばパンの味を邪魔してるんだ。そして焼きそば。単体ならソースの濃さは満点だけど、パンと合わせるには少し弱い」
言われてみればそんな気がしてきた。これはもしかしたら、単体で食べたほうが美味しいかもしれない。
「ごめん筒井さん。こんな半端なものを食べさせて」
「気にしなくていいよ。充分おいしかったし」
「いつか必ず、最高の焼きそばパンを筒井さんに食べさせてあげるからね」
「うん……」
「筒井さんの焼きそばパンは僕が作る!」
そう息巻いて去っていった山越くんは、今から森浦くんの教室に行くのだろうか。
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