第15話 陸上部のスピードスター

体育の時間、私たちはバレーボールの授業をしていた。休憩を間に挟んでいると、男子がバスケをしているのが見えた。


「いけ山越ー!!」


うおお、と男子が雄叫びを上げる。その先にいるのは、ドリブルをしながらコートを駆け回る山越くんだった。


「山越くんだ」

「頑張れー!」


山越くんはそのままゴールにボールを入れた。男子たちの歓声が湧き上がり、山越くんは彼らに囲まれて見えなくなった。


「すごいね、山越くん」

「さすが、陸上部のスピードスター」

「……初めて聞いたんだけど」


山越くんはそんな風に呼ばれていたんだ。知らなかった。


「じゃあ、次も頼んだぞ、山越!」


「てゆーかさ、陸上部に負けてるバスケ部が可哀想なんだけど」

「山越くんバスケもいけるなんてね」

「かっこいいよね、美麻!」

「う、うん……」


山越くんの姿が再び見える。またドリブルでコートをかけていく山越くんは、他を圧倒的に寄せ付けない雰囲気があった。


「山越くん、頑張れ!」


私が声を出した瞬間、山越くんはゴールに向かってボールを投げた。


「うそ、スリーポイント!?」


山越くんの投げたボールはリングに当たって、跳ね返った。


「あー……」


山越くんは相手に取られたボールを取り返そうと動く。


「山越!」


相手に一斉マークを受けた山越くんの姿がまた見えなくなる。そして……。


「山越くん!」


次に山越くんの姿が見えた頃には、彼は転んでしまっていた。




体育の授業が終わり、睦月たちと教室に帰っていると保健室から山越くんと養護の先生が出てきたのが見えた。


「あ、3組の子?」

「はい」

「この子手首ケガしちゃったみたいなの。多分しばらくは右手使えないと思う」

「そんな……」

「助けてあげてね」

「……分かりました!」


私がそう言うと、俯いていた山越くんが顔を上げた。


「ごめん、筒井さん。しばらくは迷惑掛けることになると思う」

「ううん、全然気にしないで」

「最近僕調子乗りすぎてるな……もっとしっかりしないと」

「そうなの?」

「昨日も廊下走って秋月先生に追っかけ回されて……あ」


廊下走ったんだ。っていうかそれ、放課後の話じゃない?


「ごめん、忘れて」


山越くんは1人で男子の更衣室のほうに歩き出した。


「山越くん、足大丈夫?」

「足は大丈夫。その代わり床につけた手をやっちゃったから」

「山越くん……」

「心配ないよ、筒井さん。僕着替えてくるね」


手を振って去っていく山越くん。それを見た巡流が言った。


「山越くん廊下走ったんだ。やんちゃだね」

「うん……」


私の忘れ物を届けるために廊下を走るなんて……助かったけど、そこまでしてくれなくても。

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