第13話 ストローと山越くん
私はこの間山越くんが飲んでいた缶コーヒーを買った。
フタ付きの缶コーヒーはこの学校に売ってるものでは珍しく、最近みんなが買っているのをよく見かけるようになった。
だから私も買ってみた。振らないように気をつけないと。
「はあ……」
私の後ろを通って席についた山越くんは、大きなため息をついた。
「どうしたの、山越くん?」
「実は、困ってて」
山越くんが机の上に置いた缶のミルクティー。フタ付きではない、プルタブのついたものだ。
「僕はこんなもの買うつもりじゃなかったんだ……」
「じゃあどうして?」
「さっきさ……」
山越くんが自販機の前で飲み物を選んでいたときのこと。
「どーれーにしーよーうーかーな」
指を動かして選んでいた、そのときだった。
「てーんーのーやーまーごー」
「おっ、山越!」
「あ」
山越くんは陸上部の先輩にいきなり声をかけられ、間違えて途中でボタンを押してしまったらしい。
「ガタン、って音がした瞬間さ……絶望だったよね……」
「……まあ、飲むしかないんじゃない?」
「……実はさ、今日。ストローないんだよね」
「あー……」
山越くんはストローでフタのない缶の飲料を飲む。だからストローがないのは重要な問題だ。
「もしよかったら……私のコーヒーと交換する?」
「いいの?値段は140円だよね?」
「うん。それもたしかそうだったような」
「そうだよ。ありがとう、筒井さん」
私は山越くんと飲み物を交換し、飲んだ。
「なんで今日……ストロー忘れたの?」
「妹の箸を間違えて持ってきた……」
「ってことは妹さんは……」
「今ごろはストローを見て絶望してるだろうね」
はあ、と大きなため息をついた山越くんは、カバンの中から下敷きを取り出した。
「あ、それみそふぁみの……」
「そう。妹のものだよ」
そして山越くんは、ペンケースの中から桃色の鉛筆を取り出した。
「これも妹のだ」
「一体どうしてそんなことになったの?」
「勉強を教えていたんだ。でも親に早く寝なさいって言われて、急いで片付けた結果がこれだ。きっと妹も困ってるに違いない」
再び山越君はため息をつき、そして鉛筆を置いた。
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