第12話 くもおとこ

になりたい……」


空を見ながらそう言う山越くん。表情は見えないし一体何を考えてるのか分からないけど、また深刻そうな顔で変なことを考えてるに違いない。


「……雲?」

「うん、


なんで雲なんだろう。まさか無機物、というか雲は水だよね?に、なろうとするなんて。


「どうやったらなれるかな。やっぱり生まれ変わるしかないのかな」

「……生まれ変わってもなれるとは限らないよ?」


だって無機物ですし。水だし。難しいと思うんだけど。


「大きいほうがいいかな。でも大きいと動きづらいよね?筒井さん」

「そんなこと言われても……」


雲に動きづらいも、何もないんじゃない?風に任せて動くしかないんだから。


「小さいと小回りが利くし、いいのかも」

「小回りとかあるの?」

「あるよ。小回りが利かないとすぐに死んじゃう」

「……待って何の話なの?」

「え?の話だけど」


まさか、山越くんが言ってるくもって。


「八本足のアレのこと……?」

「……?うん」


山越くんはそう言うと、昨日あったという出来事を語りだした。


「昨日の帰り、小学生がサッカーボールを木の上に引っ掛けたんだ」




山越くんがそのボールを木に登って取ってあげたらしい。すると彼らは山越くんに懐いて、山越くんは蜘蛛男くもおとこと呼ばれるようになった、と。


「だから本物になりたいんだ」


いや……全く繋がらないな。発想が飛躍しすぎていてついていけない。


「クモなんてみんなの嫌われ者だよ?なんでそんなのになりたいの?」

「クモはたしかに嫌われ者だ。だけど、他の虫を食べたりして、みんなに感謝されてるときもあるんだよ」

「そうだけど……」


私は山越くんがクモになるなんて嫌だ。せめてサルとかにしてほしい。


「いっそのことスパイ◯ーマンとか……」

「うん、それがいいよ」


嫌われ者から一気にみんなのヒーローに。


「あ」

「何?」

「生まれ変わらなくても、僕がクモの生態的特長を手に入れたらいいんじゃない?」


またややこしい話を始めたな山越くん。


「よし、そうなったらクモについて研究しなきゃね」


色々ズレてるよ山越くん!あと見ず知らずの小学生のためにそこまでしないで!


「そうなったらさっそく昼休みに図書室に行こう、森浦も連れて。筒井さんも来る?」

「いや……遠慮しとく……」


本当に昼休みに姿を消した山越くんだった。




「駄目だったよ筒井さん」

「……え?」

「さっきのクモの話」

「ああ……」


昼休みが終わる少し前に、山越くんが戻って私に言った。

山越くんの手には色々な図鑑がある。


「全然、見つからなかった。クモになる方法」

「だよね」

「どうしよう……あの子達になんて言えば……」


山越くんが本気で悩んでいる。でも。


「山越くんにクモになって欲しいって言ったの?その子達」

「ううん」

「……じゃあ別に無理しなくていいんじゃない?」

「……たしかに」


山越くんは頷くと、図鑑をしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る