第9話 山越くんと休日

私は休日、駅前の本屋にやってきた。先日山越くんと話していたみそふぁみの絵本を見に来たのだ。


「いらっしゃいませ」


中に入って絵本コーナーに行こうとすると、見覚えのある服を着た人が居た。

うちの制服だ。部活帰りかな。


「これか……?」


……違う。いや、違うことはないんだけど。山越くんだ。


みそふぁみの絵本を手に取る山越くん。思わず隠れてしまった私は、下手に動くこともできずに山越くんを見ていた。


山越くんが動いた。どうしたのだろう。


「筒井さん」

「……山越くん」

「後ろでドタバタしてたから、誰かと思ったら筒井さんだった」


しっかりバレていた。山越くん、すごいな。


「今、部活帰り?」

「うん。みそふぁみの本買おうと思ったんだけど、どこから手をつけたらいいか分からなくて」

「妹さんっていくつなの?」

「小学2年生」


弟たちよりも小さい。結構山越くんと離れてるんだな……。


「筒井さん、絵本って順番はどうなってるの?」

「特にないけど……多分、発売順ならこれかな」


一冊の絵本を私が手に取ると、山越くんは嬉しそうにそれを受け取り、レジに向かった。


え、買うの?判断早くない?




本屋から出てきた山越くんは、正面にあるゲームセンターを見て言った。


「妹もとうふちゃんが好きなんだけど、今プライズで大きなぬいぐるみがあるんだよね?」

「うん」


よく調べてるなあ山越くん。私もまだゲットできていないんだけど。


「今から取りに行こうと思って。筒井さんも来る?」

「行く!」


私は山越くんについていくことにして、ゲームセンターに入った。


「見て、筒井さん」


大きなUFOキャッチャーの中にいるとうふちゃん。かわいい。


「僕、先にやっていい?」

「うん」


山越くんの腕、見せてもらおう。私は何回もUFOキャッチャーをやったことがあるけど、山越くんはどうだろう。




「うーん。アームが弱いのかな……」


さっきから山越くんは惜しい。少しずつしか動いてないし、これでは何回かかるか分からない。


「手伝おうか……?」

「ううん、大丈夫。これで勝負を決める」

「勝負って」

「大体分かったから」


山越くんはコインを入れて、アームを動かす。


「ここだ」


ボタンを押して、アームが降りる。アームはがっしりとうふちゃんを掴み、動く。

これ、本当に取れるんじゃ……。


「……あ」

「ああ……」


しかし、もう少しというところでとうふちゃんは落ちてしまった。


「……次」


その次で山越くんはとうふちゃんをゲットしたものの、あんまり嬉しそうではなかった。




「山越くん、取れたよ!」


私は結局、山越くんの3分の1の回数で取れてしまった。少し落ち込んでいる山越くんは、ふらふらと歩いていく。


「山越くん!」

「……筒井さん」

「妹さん、喜んでくれるといいね!」

「……うん」


山越くんはゲームセンターを出ていった。

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