第8話 化学の教科書

「森浦……ごめんね、筒井さん。今日もよろしくお願いしていい?」

「いいよ」


 今日も英語の時間、山越くんに教科書を見せることになった。

 いつも通り山越くんは真剣に勉強している。


「じゃあここ、山越」

「hardlyです」


 違うよ山越くん。hardlyはhardの派生形じゃない。似てるけど全然意味違うから。


「あー……山越、見事にトラップに引っかかったなあ……」

「え?」


 山越くん……もしかして英語、苦手?




 次は化学だ。山越くんはウキウキで教科書を取り出し、机の上に置く。


「山越くん、なんで化学の教科書がそんなに好きなの?」

「だって綺麗じゃない?」


 たしかに化学の教科書には炎色反応とか、綺麗な写真がたくさんある。けれども、私は化学の教科書をそこまで綺麗だと思ったことがない。


「理屈的なことは僕あんまり得意じゃないけど……。化学反応って神秘的で、最高だよね」

「そう、なんだ」

「筒井さんも一度しっかり読んでみてよ。なんならオススメのページ紹介するよ」

「え」


 おすすめのページ。教科書に?


「一番オススメなのはやっぱり巻末の元素一覧かな……でもわかりやすいのは炎色反応だよね……そうだ筒井さん、この中でどれが一番綺麗だと思う?」


 炎色反応のページを差し出された。山越くんはうっとりしながらそのページを見つめている。


「これ、かな……」

「カリウム?僕はルビジウムが一番好きなんだけど……」

「そもそも全部綺麗だから選べないよ」

「そうだよね!」


 目をキラキラさせる山越くん。教科書を閉じると彼は言った。


「早く実物を見たいなあ……実験しないかな……」


 ルンルン気分で席に座る山越くんは、なんだか楽しそうだった。

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