第6話 英語の教科書
山越くんとの1ヶ月が再び始まった、その日の昼休み。
「ごめん筒井さん、次の英語、教科書見せてくれないかな」
「うん、いいよ」
山越くんがそう言うので、断る理由もない。
「にしても山越くんが忘れ物なんて珍しいね」
傘くらいしか忘れたことがない山越くん。彼は案外、真面目なのである。
「うーん……忘れたっていうか……。学校にはあるはずなんだけど。友達に朝貸して返ってきてないんだ」
なるほど。結構あるあるだよね。友達って森浦くんかな。
「昼休みに探しに行ったけど、教室にいないし……全くどこに行ったんだか……」
山越くんが本気で困っている。こんな顔をするのは結構珍しい。
「返ってくるといいね」
「本当にそうだよ……筒井さんに迷惑をかけるわけにはいかない」
私のことはあんまり気にしなくていいんだけど。早く山越くんの教科書が返ってきて欲しい。
そしてチャイムが鳴って、山越くんは私のほうに席を寄せた。
「ここは名詞節に修飾して……」
先生の授業を聞いている山越くん。黒板に書いていなくても、きちんとメモは取っている。
こういうところ本当に真面目なんだよな……。
「筒井さん、ここなんだけど、whichじゃだめ?」
「そこはthatじゃないと……意味が変わるから」
「へー」
綺麗なノートだ。山越くんの成績は知らないが、しっかり内容は頭に入ってるのだろう。
「ありがとう」
私が言ったこともメモする山越くん。その横顔は本当に真剣で、休み時間の山越くんとは違っていた。
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