第3話 陸上部の山越くん
私は放課後、バドミントン部で練習をしていた。
「美麻、そろそろ休憩したほうがいいよ!」
「はい!」
汗をタオルで拭っていると、友達の1人、萌華に声をかけられた。
「外で風浴びてきたら?超涼しいよ」
「うん、ありがとう」
萌華に言われるまま体育館の外に出ると、陸上部らしき人たちが外を走っていた。
陸上部はやっぱり背の高い人が多い。その中に1人だけいる、小さな男の子。
「……山越くん!?」
彼が反応してこっちを向いた。あ、やっぱり山越くんだ。笑ったように見えた彼は、また前を向いて走り出した。
「おかえり美麻。涼めた?」
「うん……あのさ、萌華」
「なに?」
「外に山越くんがいたんだけど……」
「あー、陸上部だよね。めっちゃ足早いらしいよ」
なにそれ初耳なんですけど。私は山越くんが陸上部だったことも知らないというのに。
「その反応だと知らなかった感じ?山越くんって陸上部では有名人だよ。普段が……ほら、アレだから余計に」
「そうなんだ……」
山越くん。私はてっきり部活に入ってないと思っていた。足が早いことも知らなかった。
私、よく考えたら山越くんのことなんにも知らないなあ……。
私は水分を摂ろうとした。しかし、水はなくなっていた。
「あ……」
「買ってきたら?」
そう萌華に言われたので、私は体育館の外にある自販機に財布を持って向かった。
自販機の前にいる、さっきも見た姿。というか、毎日見る姿。
山越くんだ。
「どーれーにーしーよーかーな」
指で自販機のラインナップをなぞり、飲み物を選ぶ山越くん。うん、いつもの山越くんだ。
「てーんーのーやーまーごーしーのーいーうーとーおーり」
自分なんだ。神様じゃないんだ。そして山越くんの指した飲み物、ナタデココヨーグルトは明らかに水分補給に向いてない。どうするんだろう。やり直すのかな。
そう思っていると、自販機からガコン、と飲み物が落ちる音が聞こえた。
え、飲むの。ナタデココヨーグルト。飲んじゃうの!?
「ぷは。ああ、筒井さん」
ナタデココヨーグルトを一気飲みした山越くんは、私を見て笑った。
「筒井さん。これおいしいよ」
「うん……」
いや、今は飲まないよ。私はミネラルウォーターを飲みに来たから。
「筒井さん、バドミントン部だよね」
「うん。山越くん、陸上部だったんだ?」
「中学のときからね。足には自信があるから。でも僕、ラケット競技は苦手だから尊敬するよ」
「そうなんだ。そういう人って結構いるよね」
山越くんはグラウンドの方に歩き出し、言った。
「僕は練習に戻るよ。じゃあ、またね筒井さん」
「うん、またね山越くん」
山越くんを見送り、私は自販機を見た。ポカルにするか、アクアリにするか。値段は一緒だ。
ナタデココヨーグルトは……ないな。うん。今度にしよう。
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