第2話 あなたの名前は

「筒井さんに下の名前で聞いても知ってるわけないじゃん……」


 背の高い彼の後ろから出てきた山越くんは、私を見上げると言った。


「ごめん筒井さん。このバカが」

「俺をバカって言ったか?お前のほうが成績悪いのに?」

「平均取れてるからいいんだ」


 そう言った山越くん。山越くんの下の名前は作都。ごめん、サクトって読んでた。サトなんだね。

 山越、作都さと


「ていうか筒井さんお前の名前覚えてないの?」

「多分」

「でもお前は筒井さんの名前覚えてるんだろ?」

美麻みまでしょ?筒井美麻」


 覚えてた。山越くん私の名前知ってたんだ。


「作都っていうんだコイツの名前。覚えてやって」

「う、うん」


 覚えよう。というかこんなことがあって忘れられるわけないよ。


「筒井さんありがとう。もう戻っていいよ」


 私は山越くんにそう言われたので、友達のもとに戻った。




「あのイケメンやばいねえ。森浦くんって言うんだっけ」

睦月むつき知ってるの?」

「知ってるも何も結構有名でしょ。まさか山越くんの友達だとは思わなかったけど」

「へー……」

「美麻は男にキョーミないよね」

「私には”みそしるふぁみりぃ”がいればいいから」


 みそしるふぁみりぃとは、私たちが大好きなキャラクターたちの名前だ。私の最推しはとうふちゃん。みんなのママだ。


「美麻が一番みそふぁみにハマってるよねー」

「一番最初はそんなでもなかったのにね」

「みんなのおかげだよ」


 私たちはみそふぁみで繋がったけど、私は流行ってるからとりあえずキーホルダーを付けてみただけだった。だけど思った以上にハマってしまい、今では4人の中で一番のみそふぁみ好きになってしまった。


「山越くんって美麻のこと好きなんじゃないの?」

「よく話しかけられてるよね?」


 うーん。それはないと思う。今までの山越くんの行動を思い返しても、明確にそういう気持ちがあるようなことはしてなかった。


「美麻はどう?山越くんってどんな感じ?」

「……面白い人」


 そうとしか言いようがない。だって本当に面白いんだもん。


「案外何年後かにくっついてたりして」

「さすがにそれはないよ……」


 私はそう言った。山越くんとの未来なんて、想像がつかないから。



「美麻でしょ?筒井美麻」


 でも名前を覚えられていたことは少し、嬉しかった。

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