第6話 きみの魔法に溺れる

望夢くんは、ぼくのことを覚えていないらしい。幼なじみの阪下雄大に聞いて発覚したことであって、本人の口からは聞けていない。ていうかそんなのを本人に聞かされたらぼくはきっと、発狂するだろうから。幼なじみから聞かせてもらう形で良かったなと思ってる。ぼくのことを忘れているのなら、もう一度惚れさせれば良いだけの話なんだから。そしてそれは、世の中のひとが思っているよりずっとずっと簡単なことだ。だって望夢くんは、面食いのゲイだから。それから筋肉も好き。面食いに関しては高校時代によくぼくの顔を追いかけていたから確信できる。ぼくは望夢くんが好きで、望夢くんはぼくの顔が好きだったんだと思う。何回も何回も目が合うたびに微笑んでいたらちょっとだけ心を開いてくれるようになったし、トリなんていうニックネームをつけてくれたのも実は、望夢くんが最初にやってくれたことだった。ぼくは望夢くんのことが大好きだったし、今でも大好きだ。卒業アルバムの望夢くんのページを何回も指でなぞって、証明写真のようにガチゴチに固まった彼の表情を笑って過ごすのが、ストレスがたまる日常生活におけるリラックス方法だった。幼なじみと一緒に住んでいるというのは聞いていたし、いつか遊びに行って告白しようとさえ思っていた。望夢くんにぼくへの気持ちが残っていないかもしれないことは承知の上だけれど、なにも覚えていないわけじゃないんだから、またきっと好きになってくれるよね、という楽天的な気持ちでいた。

望夢くんは、自分から告白をしないので有名だった。主にゲイとバイの連中のあいだで。自分から告白をしないし、自分の気持ちには平気で蓋をしてしまうのが気がかりだった。いつでもみんなの真ん中にいるくせに、いつでもふらっといなくなってしまいそうな、野良猫みたいな生きものだった。自分から告白をしないくせに、誰かに告白されるとその数日後には、俺も好きだった、とか言い出すような不思議なひとだった。これが、高校時代の望夢くんの話。望夢くんは面食いで、ぼくみたいな整った顔が大好きみたいだった。出会いは幼なじみにテキストを借りに行ったときで、隣のクラスだったのに何故かみんなの輪に入れてもらえて、かなり平和な高校時代を過ごしたものだった。望夢くんの近くにいると、いつも心がどきどきしてぽかぽかして、とても暖かい気持ちになるから、ぼくは彼のことをひそかに魔法使いと呼んでいた。いつかぼくも彼みたいな、誰かを温かい気持ちにすることができるような魔法使いになろうと、そう決めていた。

幼なじみから望夢くんとのデートを提案されたときには小躍りしてしまって、その日の仕事帰りに大きめの本屋に寄って、デートのガイドブックまで購入してしまった。いろんなデートコースが載っていて、これを望夢くんとデートできるのだと思うと、わくわくが止まらなかった。中でも映画デートなんて最高だと思った。望夢くんはホラー映画は好きかなあ。手すりで手がぶつかっちゃったりして、怖がる望夢くんの手をふんわりと包んであげたりして。妄想をしながら映画デートのページに丸をつけて、そして幼なじみにガイドブックを託し、あとは望夢くんがぼくとデートしたいと思ってくれることを願うだけだった。

ただ、問題が発生した。望夢くんはぼくのことを、先日の駅前で助けてくれたひと、くらいの認識しかしていないらしい。おかしいなと思いながら考えてみると、小鳥遊びと書いてタカナシですと説明したときにも反応がおかしかった。たかなしさん、と距離を置いた形で名前を呼ばれて、昔はトリって呼んでくれていたのに、それも無くなってしまった。全部無くなってしまって、ゼロからのスタートになってしまった。それでもいいよ、それでもいい。ぼくはいつかの望夢くんを忘れないから、ひとりにしないであげるからね。高校時代で掃除当番に二人だけでなったとき、相談をしてくれたこと、ずっと忘れないでいるからね。掃除中に控えめに彼は、ぼくの耳元で囁いたのだ。好きってことがよくわかんない、って。いつだって男子高校生の輪の中ではメインエピソードが下ネタに寄りがちなのに、望夢くんはそういう話題になるとふらっと消えてしまうのが気になっていたから。ぼくはかつて聞いたことがあった。

どうして望夢くんは急に消えるの?好きってことがよくわかんないから。


懐かしいやりとりを思い出しながら、ぼくはデートの待ち合わせ場所にした銅像の横に立っている。彼がやってくるのを待ちながら、ふと周りを見回すと、なるほど。ちょうど彼が群衆の中で別れた恋人にセクシャルマイノリティであることを暴露された場所だった。あのときのぼくは望夢くんを見つけられたことがうれしくて、DVでもされてるんじゃないかと思って、慌てて彼とその恋人らしき男を引き剥がした。結論から言えばDVではなくて、別れることを納得してくれない彼氏が騒いでいただけだった、というものだった。ちなみにこの話は、ぼくがひっそりと通っているスナックで、ぼくよりも通い詰めている常連さんたちにサービスをしているのを、盗み聞きしただけである。まさか小鳥遊湊がひっそりとゲイバーに通っているなんてことは想像もしていなかっただろうね、彼は。ぼくだって別に望夢くんを追いかけてここに通い詰めているわけじゃない。ただ偶然自宅としているアパートから近くに、ゲイが集まることで有名なバー、もといスナックがあるらしいと聞いたから、そこに入ってみただけだ。入ってみたらきみがいた。それだけの話で、ストーカーみたいなことをやっているわけではない。たまにフロアスタッフとして近付いてこられると、ものすごくどきどきしてしまうけれど。


「あっ、小鳥遊さん。おそくなりました」

「同い年だから敬語なしでいきません?せっかくデートなんだし」

「はい、ああいや、うん」


デートと強調してやれば、望夢くんは顔を少し赤らめてぼくのほうを見た。同い年だなんて何で知っているんだ、って突っ込まれたらどうしようかと思ったけれど、それどころじゃなさそうだったので良いことにした。今日は一緒に映画デート。見る映画はまだ決めていない。だってぼくのことを忘れちゃうほどに時間が流れたのなら、好きな映画だって変わっている可能性が大いにある。シネコンにして正解だったな、と思いながらゆっくり歩き出して、さりげなく手を取ってつないでみた。耳まで赤い。スナックでいくらセクハラをされようとも無表情か冷たい目つきで客を凍り付かせているあの彼が、手をつないだだけで顔を赤くしている。ぼくだけしか知らないかもしれない望夢くんを、今はぼくが見ている。こんなに幸せなことって、この世にあるだろうか。いや、ないね。反語をつかってしまうくらいに、ぼくは望夢くんの赤面に興奮している。

シネコンまで手をつないで歩きながら、話題を考えてみる。ご趣味は?うーん、お見合いみたいになっちゃうな。趣味がないって言われても困っちゃうし。天気の話はあまりにもバカみたいだからやめたほうがいい。……ねえ、望夢くん。ぼく、あの頃と比べたらちゃんと大人になれたでしょう?話題をただ提供するんじゃなくて、ぼくたちが会話をしやすいようにトピックを選んでいる。昔はどこか抜けているぼくのことを、みんなで笑いながら慰めてくれていたけれど。今度はぼくが慰めてあげるよ、だからぼくに全部委ねて。ちなみにぼくの趣味は映画鑑賞、だからここに連れてきたっていうのもある。ぼくの好きなものを知って欲しくて、映画館に連れてきたのもある。あとはもしできたら一緒にホラー映画を見て、キャッ!てぼくの手を握る、みたいなのをやりたい気持ちもある。ぼくだって健全なアラサー男性だから、そういうくだらないことを考えちゃったりするものなんだよ。


「映画、好き?」

「えっあっ、うん。そうなんだけど、……どうしてわかったの?」


ぼくが映画が好きだって話を幼なじみから聞いたりしたんだろうか。ゼロからのスタートなんだから、そういう予備情報みたいなものは与えなくていいよって言ったのに。そういうところが致命的に最悪なんだよなあ、幼なじみは。だからまともに落ち着いて恋人がいた試しはないし、いつだって男遊びのことしか考えていないんだから。いくら自分に子どもを望まれていないからといったって、自由奔放がすぎるっておばさんもよく泣いてるよ。


「なんか楽しそうだから……ごめん、なんかちょっと、こういうのあんまりなくて、緊張してる……」

「こういうの?」

「外で手をつないだりするの、あんまりやらないんだよね」

「うそ、ごめん!や、やめよっか!」

「……やめなくていい……」


カーッと音でもしそうな勢いで、望夢くんが赤面していく。早くどうにかしないと茹だっちゃうんじゃないかってくらいに真っ赤。ていうか恋人と別れたんだから、あの大声野郎とだって手をつないでいるはずなのに、あんまりやらないってどういうことだろう。もしかして何か地雷でも踏んだか。そこに埋まっているはずもないのに、また慌てて片足ずつあげたりしてみる。犬のウンコを踏んだかもしれないときに取るポーズみたいな状態だ。くすくすとおとなしく笑う望夢くんを視界の片隅におさめながら、笑い方にも違和感があることに気付いた。シネコンまではまだちょっと距離があるから……なにか聞いてみようか。頭の中でロールプレイングゲームの選択肢を出しながら考える。

どうしてあんまり手をつないだりしたことがないの?……うーん、さすがにこれはド直球すぎて引かれるかもしれない。聞きようによっちゃ、まるで経験が浅いやつはお断り、みたいなふうにも聞こえてしまうから。このことば選びは無かったことにしよう。続いてもうひとつ。彼氏とはやらなかったの?……手をつないだりしなかったの、って聞いたほうがいいのかな。でも、アレは彼氏じゃなかったのかもしれない。セフレの関係を終わらせようとしていたとも取れる。またとんちんかんなことを言って望夢くんに失望されるのもイヤだし。どうやって聞き出そうか。できればぼくは、

「ぼくと付き合うとこんなことができますよ」展示会を本日開催したいので、初めてのものがあればあるほどにうれしいのだけれど。トリ展示会。入場チケットは要りませんが、顔パスなので永遠には入れないひとは永遠に入場できません。


「……猫かぶるのやめていい?」

「えっ猫!?あ、いいよ、どうぞ」

「アッハッハッ……おもしろいね、小鳥遊さん」


笑い方がいつものに戻った。常連さんたちとしゃべっているときに笑う声と一緒だ。ちょっとだけ彼のベールの中をのぞき見た気分がしてうれしい。みせてくれるんだね。望夢くんの中にはもうトリはいないだろうに、それでも新しい小鳥遊さんとして俺を迎え入れてくれるなんて、なんと心が広いんだろう。


「手をそんなにつないだことが無いのは、今まで付き合った人たちはみんな、おうちデートばっかりだったから。まあ、ゲイだしね。めずらしいもの扱いをされてじろじろ見られるのもイヤだったんでしょ」


気持ちはわかるよ、俺もそういう目で見られるのはもう慣れてるから良いけれど、慣れないひとはイヤなままだもんな。ぽつりと話してくれたことばの中には、彼の中にあったはずの本音もうまく混ぜられている気がして、なんだかちょっとうれしかった。そんなことをこのぽっと出のぼくに話してくれるなんて夢みたいだ。本来ぼくはぽっと出ではなくトリとして望夢くんのこころのなかに居るはずなんだけど、そのトリを忘れちゃったというのならしかたがない。もう一度小鳥遊湊として望夢くんの心のなかに居座ってやろうじゃないか。見てろよ、トリ。おまえの無念はちゃんと晴らすからな。


ドンドンドン、ドン!と大きな音が響くたびに、軽く身体を揺すってびっくりしているのはもちろん、ぼくのいとしの望夢くんだ。映画館についてどの映画を見ようかと話していたら、上映時間がちょうどいいのがこのホラー映画しかなかった。望夢くんは今日もミヤちゃんとしてスナックに仕事をしに行かないといけないから、あまり遅くまで一緒に居られるわけでもない。それならば映画以外にも楽しむ時間が作り出せそうなもの、としてホラー映画を見ることになった。ぼくはホラーは大丈夫だけれど、彼はどうやらそこまで得意ではなかったらしい。苦手ってほどでもなさそうだけど、クライマックスが近付くにつれてゴーストが激しく動くようになったので、音もどんどん大きくなっていっている。そのせいか、手すりに置いているぼくの手を、ぎゅぎゅっと握ってきてくれている。かわいいったらありゃしないから、いちいち手をどけるみたいな野暮なことはしない。

でも、学生時代はそんなにホラーだめじゃなかったような気がする。修学旅行にみんなでお金を出し合って、ポータブルプレイヤーをもっていったりしたんだから。その中にもホラー映画は入っていたけれど……ああ、そういえば俺の幼なじみと一緒に飲み物を買いに行ったり温泉に入りに行ったりと映画を見ないで忙しそうにしていた気がする。そっか、ホラーだめだったんだね、ごめんね、望夢くん。ぴく、ぴく、と震える彼を見ていられなくて、近くの座席が空いているのを確認してから、背中からぎゅっと抱き込んでやった。もう片方の手で目元を覆ってやる。ついでに周りの迷惑にならないように耳元で、終わるまでこうしてな、と伝えてやる。目元を覆った手のひらが、じんわりと湿り気を帯びている。ああこれ、泣いてるじゃん。泣くほど怖かったか……今後はトリだけじゃなくて、小鳥遊湊まで忘れられてしまうかもしれない。失敗したなあ。


「望夢くん、終わったよ」

「最近のホラーってなんであんなに怖えの!?」


エンドロールまできちんと終わってから彼に声をかけてやると、安心したように一つ大きな息を吐き出して、そうして開口一番にこれだ。よかったね俺、ここまで強がる元気があるなら、まだ嫌われるってことはないと思うよ。うん、俺もちょうどそれを思っていたところ。心の中で会話をしながら、彼に次は何をしたいか聞いてみる。食事だったら良い感じのカフェが近くにあるし、グッズショップを覗いてもいい。まっすぐ帰るって言われたら送っていこう。どうやっても時間はまだあるから、次の行き先を望夢くんに委ねてみる。家に帰るって言われたらこれはもう、好感度がマイナスになったと思ってもいいだろうなあ。食事だったらだいぶ心を許してもらえたというバロメーターになるだろうし。さあ、なんて答えるかな。ドキドキしながら待っていると、にゅっと手がどこからか伸びてきた。そうして手のひらにはちょっと汗ばんだ望夢くんの手が重ねられている。指と指と一本ずつ絡ませるような恋人つなぎを、向こうからしてくれている。えっ、これ、夢じゃないよね。ぼくが起きたまま都合の良い夢を見ているとか、そういうことなのかな。どきどきと飛び出しそうになる心臓を押さえながら、繋がれた手をもう一度目視で確認。つ、繋いでる……。

勢いよくずんずんと進む彼に引きずられるようにして、ぼくもついていく。このシネコンはデパートの最上階にあるものなので、その気になればウィンドウショッピングで楽しめるくらい充実している。メンズのブランドものだったら三階だけど、そこを見に行くのかな。引っ張られながら向かっていくと、エスカレーターの前で止まって、ぼくのほうを振り向いた。


「小鳥遊さんは」

「あー、長いでしょ。湊でいいよ、ミナトで」

「まだ心の準備が追っつかないから小鳥遊さんで」


エスカレーターにのって階下に移動しながら、ことばを反芻してかみしめる。湊と呼ぶにはまだ、心の準備が追いつかないらしい。心の準備が必要ってことは、かなりぼくのことを意識してくれているのではないだろうか。恋人になるかもしれない人間として?それとも友達として?今のところは忘れ去られるというマイナスからのスタートだったこともあり、どうやったってこれからプラスになることに関して、口の端、つまり口角が勝手にあがってしまう。ニヤニヤすんなとか言われちゃったらどうしようか。


「小鳥遊さんさ、結構感情表現豊かだな。俺なんか仏頂面とか言われ放題だよ」


ひとり百面相をやりながら望夢くんのほうを見ると、ゲラゲラと笑い転げているではないか。それでも嫌われるよりはマシ、と自分に言い聞かせて、もう一つ変顔をしてやる。なんかもっとお堅いイメージだった、とつぶやく彼のほうを見ると、ひいひい言いながら笑っているではないか。もっとクールなほうがぼくのことを好きになってくれたのかな。勇気を出して告白しようとか、考えてくれたのかな。トリとしてもぼくは結構そうやって言われたものだった。見た目はクールなのにしゃべると全然違うな、おまえ面白いな、ってよく言われたものだ。みんなの輪の中心にいた、早見望夢くんに。まあ、そっちは覚えていないかもしれないけど。お世辞でもなんでもクールという評価がすごくうれしくて、その日のぼくは家に帰ってから小躍りしたくらいだった。

あの頃と一緒だよ、ぼくたち。

エスカレーターが別のフロアにぼくたちを運んできてくれているので、一度前を向いてきちんと降りる。こっちはかつてのトリで、そっちはミヤちゃんだったりするけれども。お互いに根本は変わってないんだな、なんて思う。そんな一面を見せられたら、もっともっと好きになっちゃうけどいいのかな。みんなのミヤちゃんはみんなにあげるから、早見望夢を全部ぼくにくれたりしないかな。それにはまず、ぼくが勇気を出して告白しないといけないんだろうな。だって相手はあの、絶対告白しないモテ男の早見望夢だから。こっちがなにか行動を起こさないと、向こうは勝手に諦めちゃうから。あきらめなくていいように、やっぱりぼくから告白しよう。よし、そうしよう。決めたら善は急げだ。デパートのテナントを区切る通路を歩きながらきょろきょろとして、告白にふさわしい場所を探してみる。ふと、歩きながら冷静になる。デパートの中で告白にふさわしい場所ってどこだろう。宝飾品店の前とか?それはちょっと生々しすぎやしないか。冷静に考えながら歩いて行くと、望夢くんは、ネクタイ売り場で止まった。ネクタイ買うの?この流れで?


「すいません、これください」


トリとしても俺としても、あまり派手じゃないネクタイが好きだ。望夢くんはトリのことなんか忘れきってしまっているはずなのに、やけに落ち着いた、それこそ「トリ」がつけそうなネクタイを手に取って、そのまま店員さんにギフトラッピングまで依頼している。これ、ぼくにくれるためにギフトラッピングしてもらっているのかな。だとしたら、うれしいんだけど。トリのことを思い出さなくてもぼくが好むネクタイの種類を当ててくれたっていうこと自体が、とにかくものすごくうれしい。ありがとう、望夢くん。

幼なじみこと阪下雄大からトリを忘れているという話を聞いたときは、トリのことを思い出して、あの頃の関係に戻りたいな、なんてことを思っていた。けれども俺たちは成長する生きものであり、ときには後ろ向きになってしまうこともある。それでも、それでもこうやって一つずつ拾い上げていけば、前よりも強固な絆を得ることができることだってある。トリと望夢くんだったら、こういう親密なデートを楽しむことなんかできなかったかもしれない。でも、トリを忘れていても、こうして再び会うことができるのだから、そこまでなにも悲観しなくても良かったのかもしれない。トリを思い出させようなんて頑張らなくてもいいのかもしれない。


「み、みなと……」

「はい!!湊です!!」


これおまえにあげる。ギフトラッピングされたネクタイを渡された俺は、その場で声を出さずにガッツポーズを決めて、家宝にします!と叫んでみせた。もちろん叫んだのだって心の中で、だ。

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